オヤバラチン12

それは今から7年程前。オヤブン達と仕事をしていたときです。

ある某若者に大人気大手会社のご子息トシさんが、親分のもとに弟子入りしてまいりました。

その頃某エチービデオ会社のご子息がサーフィン留学を希望されたとき、親分人脈で全て手配をいたしました。

そのエチービデオ会社ご子息の伝で、トシさんは私たちの会社にやってきたのです。

（ちなみにオヤブンは、その後毎年某エチービデオ会社の忘年会に呼ばれ、エチー女優達に囲まれ幸せな年末を送っております。

親分曰く、「竜宮城や。」だそうです。）

さてトシさん。年は私より3つ上なだけでしたが、すでに妻も子もいるお父さんでした。

がっちりした体に長身、よく日焼けした肌に真っ白の歯を持つ、なかなか爽やかなハンサムさんでした。

お父様のお仕事上、金はあるは人脈もある。その上自分から来ただけあって古株を立て、よく働く好青年でした。

その頃仕事は順調で、私たちは結構忙しく働いておりました。そしてさらにアルバイトを雇う事にしたのです。

タマちゃんと呼ばれるようになったそのアルバイト嬢。いままで男ばっかりのむさくるしい職場に花が咲いたようです。

私も年下のタマちゃんを妹のようにかわいがり、皆からも愛されわき合い合いとした職場となりました。

毎年冬になるとスノーボードへ行く我会社。

前年度はギャクエッジを喰らいまくり、絶壁になるほど転びまくった私は会社中からセンスないと責められておりました。

「トモさん、練習に行きましょう。」

あるときトシさんは、私を千葉の某屋内スキー場へ連れて行ってくれました。

家の前まで迎えに来てくれ、お金は全てトシさんもち、懇切丁寧に指導してくれるという親切振りでした。

その行き帰りの車の中で、奥さんとうまくいっておらず、別居中だという話をサラっと聞きました。

帰りどこかで晩御飯でも食べようかという話になったのですが、オヤブンから至急の電話が入り、私はまた会社まで送ってもらったのです。

それから数日、大きなイベントを抱え走り回っていた私たちでしたが、何とか一山を超え打ち上げを行いました。皆ほろ酔いで上機嫌です。

帰りはタマちゃんとトシさんとライターさんが同じ方向、私とオヤブンが同じ方向でした。

帰りの車の中、オヤブンがぼそっとつぶやきました。

「怪しいな。」

なんのことか分からずキョトンとする私。

「トモ、タマからなんか聞いとらんか？」

「何をです？」

「あの2人デキとるど。」

「！！ライターさんと？！」

「あほか。トシのほうや。」

「！！！！！」

「まだ日は浅いな。」

オヤブン曰く、帰りのとき一瞬目が合った2人の表情を見てぴんと来たそうです。ほんとかよ。

その翌日、夕方会社にも戻ったオヤブンはトシさんを呼び出し、2時間ほど話し込んでいました。状況を知らないタマちゃんは今日も健気に働いてます。

会議室から出てきたトシさんの目は赤く腫れています。泣かされたのかよ。

入れ替わりに私が呼ばれました。

「おうトモ、やっぱデキとったで。昨日で2回目やそうや。」

「・・・・・。」

「しゃーない、2人とも首切るか。」

「そんな！！2人とも大人なのに！！」

「トシは嫁さんおるんやぞ。」

「でもうまく行ってないって・・・別居中だって・・・」

「トシはな。俺たちの前でほとんど酒飲まんやろ。あれアル中や。」

「！！！！！」

「酔うと嫁さんぶん殴るねん。記憶が一切無いねんけど朝起きたら嫁さんの顔がボコボコに腫れてるらしい。」

「！！！！！」

「3ヶ月前、とうとう嫁さん子供抱いて裸足のままトシの親の家に逃げ込んだらしい。」

「！！！！！」

「あとな、トシは今までにも色んな会社にコネで入ってな、片っ端から社員の女の子に手つけて問題おこしとんねん。」

「・・・・・。」

「ウチに来るときにな、絶対それは許さんゆっとってんけどな。先日タマ送って帰るとき飲みに行きよって・・・まあ酔ったんやろな。」

「・・・・・。」

ウチの会社に来るとき、よそでオヤブンの噂を聞きつけたトシさんはどうしても弟子にしてくれと土下座して頼んだという話を聞いた。

なんでそんなにまでしてうちみたいな小さな会社に・・・と思っていたが、色々な事情があったんだ。

「とにかく明日全員でミーティングするから。今日はトシ、タマに詫びて別れてくる言っとるから。」

「・・・大丈夫ですかね・・・」

「大丈夫や。今日きっちりせな、オレがめちゃ怒るの分かってるから。」

その後私は暗い気持ちで家に帰りました。

翌日朝から出かけていたオヤブン。帰ってくるなり私はオヤブンの部屋に呼ばれました。

「おうトモ。タマは来とるか。」

「はい。」

「タマは呼ばんでいいから。まあ座れや。」

「どうしたんでか？」

「トシが小指落としよった。」

「！！！！！！！」

「昨日タマと話しつけた後一旦家にかえってな。そこで飲んだんやろうな。

　一升瓶もってべろべろのまま近所の病院行って、そこの駐車場で全部飲んでから小指切って病院駆け込んだらしい。

　まあすぐやったから無事ひっついたけどな。」

「！！！！！」

「今見舞い行って来た。スンマセンとか、けじめにとか言っとったな。ガハハ。」

「笑い事じゃないですよ！！」

「しゃーかて今時指詰めてけじめて、チンピラでもせえへんで。あほやーアイツ。ガハハハハ。」

・・・大阪帰りたい・・・。切なる願いでした。

その後トシさんは結局首になったのですが、退院後酒を飲みつづけオヤブンに意味不明な電話をかけてきていたそうです。

トシさん退院後の1週間は、通勤にタクシーを使うように言われました。

そして何事もおこらず日々は過ぎていったのです。

2週間後。

夜9時過ぎ、事務所には私とライターさん2人だけでした。そこにひょっこりトシさんが現れたのです。息が止まる私たち。トシさんの手には痛々しい包帯が巻か れ、肩から吊られています。

かたまる私たちの間をゆっくり通り、トシさんは自分の机を整理しはじめました。その間、無言。

ほとんどの荷物をゴミ箱に捨て、小さな紙袋一つでトシさんは立ち去りました。すごい怖かった。だって目がうつろなんだもん。

その後トシさんはうつ病となり、姿を見せなくなりました。

タマちゃんも居辛くなったのか辞めてしまい、またもとのむさくるしい会社へ。しみじみと皆で酒は怖いと語り合いました。酒飲みながら。

それから2年ほどして、親分が偶然行った会社でタマちゃんとトシさんを見たそうです。

まだ続いてたんですね。

トシさんが指を切ったときは笑ってた親分も、その日はちょっと暗い顔をしていました。

さらにその1年後。六本木のレストランでトシさんとばったり再会。

固まる私に、「あの頃は迷惑かけてごめんね。」と笑顔で去ったトシさん。ニコニコしていましたが、うん、あれ薬だな。

なんかろれつの回らない変な感じでした。

タマちゃんはどうなったのかな・・・。

タマちゃんは辞めた直後から携番を変えてしまっているため連絡がつかないままです。

私たちが悪いわけじゃないんだけど、普通のお家に育ち、ご両親の愛を沢山受けて育ったようなお花のようなタマちゃん。

いまも笑顔でいてくれる事を願わずにはいられません。

そんな後味の悪い小指の思い出。

赤い糸どころか、トシさんの小指には一生残る黒い傷がうっすらと、ぐるりと一週してましたよ。

トシさんの黒い糸は未来に誰とつながっているのでしょうか。

アレ以来オヤブンは飲みすぎる私をたしなめるとき一言。

「指、落としたくなんぞ。もうその辺にしとけ。」

うん神様。この人にこそバチを。

バチーンとあててやって。アーメン。