オヤバラチン10

人間界にもそのパワーバランスは存在し、弱いものは強いものに飲み込まれていくんですよ。 本当に。容赦なく。

さてさてやはりワタクシが東京に出てきて間もない頃、神戸では一つの事件が起こりました。

日本最大を誇る某暴力団の最高幹部が、神戸のホテルで狙撃され亡くなりました。

新聞でも大きく取り扱われ、犯行に及んだのは兄弟スジのN会のメンバーだとか、かなりきな臭い話が一瞬日本を駆け巡り ました。

しかしそんな物騒な世界とは無縁なベルサイユ育ちの私。お城の舞踏会でクルクル踊っていましたよ。クルクル

そんなある日、事務所に今はなき広告代理店M社の営業マンの方がいらっしゃっておりました。

キリっとしたスーツ姿とは対照的に、オヤブン、パンツ一丁で打ち合わせ中です。ハイハイ、Tシャツくらいは着てくださいね。

営業マンKさんは優秀な大学をご卒業後、2年間の語学留学、その後お父様がいらっしゃる同社に入社、バリバリとお仕事をこなされていらっしゃるようです。

大学生時代には、全国に会員を持つ某有名学生スポーツサークルの総会長を勤められ、語る言葉、瞳には生き生きとした自信が溢れていらっしゃいました。

まぶしいですね。ね、オヤブン。

「おうトモ、濡れたんか。」　

お下品なことをいうオヤブンにニッコリ笑顔で膝蹴りを食らわそうとしましたが、華麗にかわされました。ちっ。

その後のオヤビンの予定は渋谷の某クラブへ。若者がいるほうね。

なんでもやんちゃギャング達が、オヤブンにどうしても見てほしいイベントがあるというのでお迎えが来ることになっていました。

今でも渋谷のギャングっているのでしょうか。

よく分かりませんが、あらわれたMさんはその昔、渋谷最大最強を誇った武踏派チームのリーダー。静かな語り口調と小柄な体とは正反対の鋭い眼光が印象的です。

全くタイプの違う若い2人が事務所で対面。Kさんも興味を持ったらしく、一緒に行くことになりました。

でかいバンに私とオヤブンKさんが乗り込もうと扉を開けると、後ろ席をフラットにした部分に半裸の女性がアンニュイに寝そべっているのが目に飛び込んできました。

はぁっっ？！！

「おいヤマグチ。座席戻しとけっていっただろ。」　

Mさんの一言に、運転手の男性が慌てて女性を追い出します。半裸なのに。

慌てて私が止め、まず服装を直させました。

女性は訳がわからないまま駐車場に置き去り、車は発車します。

「あの、ダイジョウブなんですか？あの女性。」　

「ああ、いつも女は一人確保しとくんスよ。オヤブンやるんならいつでもいってください。」　

こともなげに言うMさん。　

「ワシもっとケツのでかいのがええねん。ついでに言うなら金髪がええねん。」　

オヤブンニッコリ。私ゲッソリ。

運転席にいるヤマグチさんは小柄なMさんとは対照的な、ガタイのいい、絵に描いたようなギャングっぷりです。

車内では、KさんがMさんにイベントの詳細を聞いています。

仕事のできるKさんの質問に、Mさんサクサク答えています。この2人、タイプは全く違いますがかなりのやり手のようです。

ますますライバル心が芽生えているようです。

店の前に到着。店内はすごい混みようらしいので、ガタイのいいヤマグチくんが、人を蹴散らして誘導することになりました。

ひとまず車をとめに行くヤマグチくん、しかしなかなか帰ってきません。

私たちが店の前で5分ほど待っていると、やっと女性の腰を抱いて戻ってきました。

軽く詫びると店のほうへ女性と共に歩き出します。

「ほほー。ええ身分やのー。」　

オヤブンの一言に、Mさんの顔色がサッと変わりました。　

「オヤブン、申し訳ございません。」　

深々と頭を下げると、Mさん、先を歩くヤマグチ君と女性のほうへ歩み寄ります。

ちょうど地下にある店のへ続く階段へ足を置いたばかりのヤマグチ君を、後ろから思い切り蹴落としました。

ヤマグチ君。女性とともに、マンガのように階段を転げ落ちます。

ギャーーーーーーッッッ！！！！

「恥かかせんじゃねぇッ。」　

低いMさんの一言に、ヤマグチ君、ふらふらしながらも慌てて駆け寄り私たちにすごい勢いで頭を下げてきます。　

「チョットーーーーーッッッ！！！！女の子はッッ？！！女の子はッッ！！！」　

私ビックリして女の子に駆け寄りましたが、すぐヤマグチ君がなにやら女性に耳打ちし、そのままその子はふらふらしながら店内に逃げるように去っていきました。

イヤーーーーーーッッ！！！！

「トモさんお見苦しいところをお見せしました。すみません。」　

「でもMさん、女性をッッ！！！怪我してますよきっとッッ！！！」　

「あー、大丈夫っすよ。えーと、あいつ、たしか柔道やってたから。」　

　絶対ウソ！！！

その後もMさんとヤマグチ君が店内に入ると、モーゼのように道があいたり、どこからともなくビールが運ばれてきたり、なかなかすごいリーダーシップぶりでした。

引き気味で見ていたKさんも、店内では沢山の後輩に遭遇するなど、なかなかの顔の広さをアピール。

イベントを抜け食事に行くときには、もう2人の戦いのようになっていました。

若いリーダー対決を、オヤブン楽しそうにニコニコしながら見ています。ああ、オヤブンやんちゃな人好きですものね。

そんな私にお電話が。モチモーチ。

「おう、トモか。コージや。」　

「ああ、コージさん。おつかれさまです。」　

「オヤブン携帯通じないけど。」　

「ああ、なんか今別の電話に出てますよ。どうしたんですか。」　

「ちょっとかわってくれ。おれ、殺されそうやねん。」　

「はぁッッ？？！！！！」　

「今日な、後輩から電話があってん。めっちゃ久しぶりの。

コージさんお元気ですかとか言うから、おー元気やでーとかってゆうたら、今どこですかって聞きよんねん。

おれ、アメ村の近くでメシ食っとったからそう言ったらな、

『コージさんすんません。おれコージさんのタマ取らなあかんのですわ。今から行きます。』

って言いよるんや。俺慌てて逃げてきたところや。ガハハハハ」　

「！！！！！！！！！！」　

慌ててオヤブンにかわりましたよ。もーーーーっっっ！！！　

「ホンマかコージ。ギャハハハハハ。おうまっとれまっとれ。」　

その後オヤブン又別の場所へお電話。　

「モシモーシ、お久しぶりですセンパーイ、ヒデオデース。マイドー。

なんかね、ボクの後輩が先輩のところの若いモンに狙われてるらしいですわ。ほら、例の絶滅作戦に巻き込まれて。

ええ、ああ、いや一切関係ないんですよ。

今ね、トキオの店におりますから。ええ。なんとかしたって下さい。

ボクあいつに死なれたら困るんですわ。はいはーい。ヨロシクー！！」　

なんでもね。

そのヤクザの大幹部を襲った組を、今本家の組が絶滅させようと片っ端から狙ってるらしいんですけどね。

コージさん、実家は喫茶店なんですけど、その2階が空いていて、そこ人に貸してたらしいんですよ。

それがその絶滅作戦対象の組の賭博場になってたそうです。

コージさん賭博やってるのは知ってたそうなんですが、どの組かまで把握してなくてほったらかしにしていたのです。

その賭博場が結構な組の収入源になってたらしく、店子のコージさん、本家のコロスリスト（本物。有言実行。）、協力者の項目にコージさんの名前があって、顔を知ってる後輩が担当になったそうです。

ちょっとコージさんどうなるのーーーっっっ！！！！

「ダイジョーブダイジョーブ。

なんかな、今日の晩組で全体集会やるんやって。若いもん集めて。

そん時先輩がコージ連れてって、皆の前で顔を見せて、

『コイツ。撃っちゃダメ。』

ってさらすんやって。ガハハハハ」　

撃っちゃダメって・・・。　

「皆懐に飛び道具しまってるからおっかないで。頭に血のぼってるし。

早とちりしたヤツに撃たれんようにしなあかんな。ガハハハハ。」　

コージさんが心配でしょんぼりする私と、別の意味でしょんぼりしているKさんとMさん。

さっきまではオヤブンのことを忘れて2人して張り合って話をしていたのに、いきなりおとなしくなりました。

「おう悪い悪い水さしてもうたな。話つづけてや。」　

結局2人ともその後はあまり話さなくなってしまいました。まあスケールがちがうし。イヤ、そんなスケール巻き込まれたら人間ダメになりますよ。

その後お2人は3年にわたり、オヤブンの手足として馬車馬のようにタダでこき使われた後、どこかへ消えてゆきました。

きっとかたぎの静かな場所へ羽ばたいていったのでしょう。まだ若いしな。

コージさんは今日も元気にぴんぴんしていますが、先日ナンパした高校生がなんと同級生の娘だったそうです。

さすがにしょんぼりしていました。

私はというと、その事件の夜実家のお母さんから電話がかかってきて、東京どうなの？とか聞かれましたが、

ギャングにパーティーに連れて行ってもらったとか、知り合いが殺されそうになったとか、報告できないことばっかりだったので、

とりあえず東京のウドンは汁が黒いと答えておきました。納得していました。 　

　 先日オヤブンの結婚式で、久しぶりにKさんにお会いしました。

M社なきあと大会社に華麗に転職され、オヤブンからはなれ人生の表舞台をユウユウと歩んでおられました。

あの頃には無かったまた新しい貫禄が生まれていましたよ。よかったよかった。

「おう、K君久しぶりーッッ！！ワシ合コンしたい。合コン。」　

「ハイッッ！！」　

結局Kさんはオヤブンとその友人たちのために合コンを設定する羽目になりました。 一度ついた上下関係は、そう簡単にはくつがえりそうにありません。 結婚式の日に合コンを懇願したオヤブンをみて、花嫁は泣き出してしまいました。

オヤブンのちょうど半分の年齢しかない新妻。

さすがにかわいそうなのでオヤブンに膝蹴りをしましたが、今回はかわさずわざと受け止めてくれました。

Kさんが尊敬の目で私を見ています。

　

弱肉強食です。　

---

Hiki::PluginException (not plugin method): inline plugin