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!証言その6 「俺より強い奴に逢いにいく！オヤブン。」

東京に出て間もない頃、オヤブンにボクシングの試合に連れて行ってもらった。オヤブンと仕事関係にある人が招待してくれたから。

初めて入る国技館。

スゲー！マス席だー！とか喜んでいたのに、マス席には座れなかった。リングサイドのパイプ席。

周りには芸能人なんかもたくさんいた。リングもすごく近くて大迫力なんだろうけど、マス席でお弁当を食べてみたかった。マスで区切られたかった。しょぼん。

そんな罰当たりな私たちがどうしてそんな良い席に座れたかというと、招待してくれた人ロブが、日本では伝説となったほどのボクシング関係者の親族だったからだ。

ロブもアメリカンはっちゃけ系で、やんちゃぶりには自信があったらしいが、オヤブンのすさまじい過去と、それを笑いにしてしまう無神経さにライバル心を燃やしたらしく、何かにつけて遊びに誘ってくる。っつか力のベクトル完璧にまちがっているとおもいます。

ロブはハワイに長く住んでいたため、いまだにハワイの空港を築地と呼ぶ。毎便新鮮な日本人観光ギャルをのせてつくその場所にのりこみ、ついたそばからナンパしてさらう、漁師のような青春を送っていたらしい。

血なまぐさいのはノーサンキュー。スマートにいこうよ。

そんな彼もオヤブンのパールに触れた瞬間何かがかわったらしい。リメンバーパールハーバー。ここにも因果関係が。

そんなロブとオヤビンに挟まれ居心地の悪い私。ちょっと離れてよアナタタチ。私の人生偏差値がさがるでチョ！

おなかがすいたので、オヤブンにお弁当買ってージュース買ってーとねだっていたら、いきなりパイプ席がシンとなった。

ふと入り口のほうを見ると、ヤクザ映画常連の某有名俳優が。でもみんなの目が釘付けになっているのは、そのすぐ後ろから入ってきた優しそうな紳士。　

「○○組の組長さんだよ。」　

ロブがオヤブンに耳打ちした。オヤブンほえーとか言って、あまり興味がなさそうです。その後ろにキレる有能ビジネスマンみたいな人が4,5人続き、最後に血の気の多そうなのが10人ほど入ってきました。　

「さすが日本でも有数の組なだけあって、大所帯だね。」　

ロブがそういった直後、今まで興味なさそうだったオヤブンがめをきらきらさせて立ち上がり、その団体へすたすた近付いていきます。一瞬血の気の多そうな人達がこちらを見ます。チョットー！！オヤブンヤメテー！！！！　

「先輩先輩！！おひさしぶりー！！」　

オヤブンはニコニコしながら、その有能なビジネスマンタイプの、しかもその中のリーダーみたいな人に近寄っていきます。若頭というやつでしょうか。

今までポーカーフェイスだったその人は、いきなりあちゃーとか言いながら顔をくずし、オヤブンを子犬でも追い払うようにシッシと言いながらてをひらひらさせます。ロブも目を見開いています。　

「お前こんな所でなにしてんねん。」　

「友達につれてきてもらったんですよ。」　

ロブが紹介してくれといわんばかりに親分の隣に立ちます。ロブ、オヤブンの交友関係に驚いたようです。

若頭になっている先輩も、なぜあの有名ボクシング関係者の親族と大阪に居たはずのチンピラ後輩がこんないい席にと戸惑い気味です。

2人は穏やかに名刺を交わしました。

若頭はそばにニコニコしてたっているオヤブンに苦笑いです。　

「ほら、お前小遣いやるからあっちいってろ。俺今仕事中やし。」　

「わーいすんません。あ、先輩、俺おいしいチャンコ食べたいんですけどどこかないですか？」　

しゃーないなーとかいいながら、オヤブンは他の組員を呼びつけ、1枚の名刺をくれました。　

「ここに行って俺の名前出せ。チャンコ作っとくように電話入れとくから。」　

そういい残して先輩は任務へと消えてゆきました。オヤブンの手には無造作に折られた1万円札が数枚と1枚の名刺。ロブが心底呆れたように親分に聞きます。　

「ねえ、どおゆう関係？」　

「高校時代の先輩やねん。　あの先輩、昔はパシリやってんで。　他の先輩のコロッケ弁当よく買いに行かされてたから【コロッケ君】って呼ばれててん。」　

「コロッケ君がすごい出世だね。」　

「頭は結構よかったからな。だから出世できたんちゃうかな。　俺の先輩で力自慢やった人は、大幹部になるか、もしくはもう死んでもうてるから。ガハハ。」　

ウンザリする私の隣で、ロブはまたオヤブンに対するライバル心とリスペクトが入り交ざったような顔になっていました。

私はその出所の怪しい金で力いっぱいオヤツを買い込みました。

私の借金した利息分とかが回っている金かもしれません。ここは思い切り使わないと。ロブがマス席をめずらしがる私のために、端の方に一つマス席も準備してくれていました。

私はマス席でお菓子をたべたり、メインマッチはパイプ席で興奮しながら見たり、とても楽しめた一日でした。　

その後名刺にある店へ行くと、そこはふつうのクラブ。はて。チャンコ？店に入るとすでに先輩の電話が入っていたらしく、奥まった個室に近いような席に通されました。

綺麗なママや若いお姉ちゃんたちに囲まれて、オヤブンとロブご満悦。ねー、チャンコはー。奥のキッチンから、ボーイがなんとチャンコ鍋を運んで来てくれました。

そのチャンコが、もう、すっごくおいしかった！！！

なぜクラブでチャンコ？という疑問すら忘れて、私は夢中で食べました。こんなことならじゃがりこ、あんなに食べるんじゃなかった・・・。おいしいチャンコと美味しいお酒（クラブだから）をたらふく胃に収めて、私とっても上機嫌です。

オヤブンとロブも、おねえちゃんのおっぱいをさわって上機嫌です。ふと、ここの料金はいくらになるんだという一番大事な問題に直面して不安になりましたが、まあいざとなったら2人おいて逃げればいいやと酔っ払った頭で結論を出しました。

高そうなクラブできれいなおねえちゃんのチチをさわり、ママにしかられながら極上のちゃんこをつつき、高そうなボトルを半分以上飲んだけど、けっきょくお金は一切払わず店をでました。

ありがとう先輩。

帰り道、先輩も長生きできるといいねとオヤブンに言ったところ、そうだなと答えました。

でも俺は、コロッケ君だった先輩のほうがスキかなと言いました。さんざんおごってもらってそれはないと思いましたが、オヤブンの気持ちも分からなくもありませんでした。　

コロッケ先輩は今どんな人生を送っているのでしょか。昔のうらみとばかりに後輩をパシらせて色々買いにいかせたり取りに行かせたりしてるのでしょか。　

「今はコロッケじゃなくて生ものあつかっとるんとちゃうか。」　

コロッケをパシらされた先輩が今誰かをパシらせています。

やったことは何だか平等に己に返ってくるような気がします。

頭がよくて優しくて、少し気の弱かった先輩。　

先輩、生ものの取り扱いには注意してください。　
　
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