チナウ


2003-02-25 (火) 格闘技のように。戦争のように。 [長年日記]

ボクラハミンナ、恋ヲスル。



夜の10時過ぎ携帯が鳴った。

私は年末の携帯まっぷたつ事件以来データーが全くない。だからかかってくる電話は必然的に知らない番号。

なので最近かかってきた電話はほとんど出ず、留守電が入っていて相手が確認できたときだけ掛け返すと言う不義理を繰り返している。

今日はなんとなく。でてみた。

キンキンだった。当たり!

最近の近況報告をしあった。ハニーが出来たらしい。おお!

君に幸アレ。イヤまじで。



キンキンと初めて会ったのはおそらく5年程前。

近所にあった昼はインド&メキシコ料理、夜はプラスショットバーになるお店【S】で知り合った。

(ちなみにコーちゃんなんかもそう)

沖縄出身のエキゾチックな顔立ちのキレーな店員がキンキンだった。

彼女は昼デザイン会社でOLをし、夜はバイトしながら1級建築士の試験を受けるべく日々がんばっていた。

その頃はその店を中心に、何人かの友達が出来た。

奄美をルーツに持つ顔の濃いユウ、

男前だが頭の弱いタツ、

人見知りのボクサーシゲちゃん、

ふらふらしている美容師そじ、

寺の後継ぎパンクのタナちゃん、

実の弟より私に顔の似ていたリッキー、

しょっちゅうトルコへ行っては帰ってこないお嬢のジュンコ、

タツのハニーでかわいいエリ、

そしてみんなのマドンナキンキンと一番オネエサンだった私。

このメンバーに、何人かプラスされたりしながらよく遊びに行った。

【S】は深夜2時までやっていたので、それ終りでカラオケにいったり、花火をしたり、肝試しに行ったり、ジョナサンで明け方までぐったりしたりした。

私たちの間には決まりがあって、かかってきた電話がメンバーの誰かで、電話を取ってしまい【集合】といわれたら最後、何時だろうと【S】へ行かなければならなかった。

皆、【S】を中心に3分以内のところに住んでいたからだ。

変な話になるが、このメンバーは皆それぞれ可愛い顔をしていた。

私は大阪から女の友人がきた時には、必ずメンバーを呼んで接待させた。大変喜ばれた。

皆人懐っこくて顔も可愛かった。

だから。

その中で恋愛感情が生まれるのも、まあ、当然と言えば当然だったように思う。

キンキンがユウを好きになって、私が同時に2人から相談を受けたときにはほぼ終っている状態だった。

言葉をかえれば俗に言うヤリ逃げにも似た状況だった。

ユウはすごく後悔していて、でもその時に感じた愛おしさは嘘じゃないと訴えた。

そんなん言われても・・・と私は困ったのを覚えている。

ユウにはその頃6つ年上の彼女がいた。

ユウはすごくすごく優しい子で、その優しさがあだになるタイプだった。

キンキンはユウより3つ年上だった。

キンキンのほうがほれ込んでしまっていた。

まいった。

でもキンキンは一歩下がって、皆の前ではそれまでと同じ友人関係を壊さないように勤めた。

今まで年下の可愛い妹分キンキンが、私の友人になったきっかけだった。

私以外は誰もその関係に気がつかなかった。

彼女はアッパレだった。



その後私はやっていた仕事が暗礁に乗り上げ、キンキンがやめた後の【S】でバイトすることになる。



ある日の夜、ユウから電話がかかってきた。切羽詰った声だった。

とにかく助けてくれの一点張りで、【S】から1分と離れていないタツの実家の居酒屋へ呼び出された。

【S】には少し遅れると電話した。

店に入ろうとすると、待ち構えていたユウにつかまり裏口に連れて行かれた。

何事かと思ったら、女関係だ。

付き合っていた6才上の彼女と別れたとたん、彼女がストーカーに豹変したらしい。

マジかよ。コワッ。

毎日家の前でたたずむ彼女に耐え切れなくなったユウは、彼女が出来たと宣言したがそんなことでへこたれない。

先日東京を襲った台風の夜、傘も差さずにたたずむ彼女を見て、ああ殺されるかもと思ったらしい。

なるほど。そら大変だ。・・・で?

は?彼女のふりしてくれ?ムリムリムリ!!!つかヤダーーーー!!!コエーーーーー!!!

ユウはユウで、トモ姉が一番強そうなんだもんと失礼なことをいう。

大体アレだよ、女関係を他の女に頼んで円満に解決してもらおうなんて、そんなの男のすることじゃないッッ!!

このばかちんがーーーッッッ!!!

しかも相手私より年上だよ?一応。

私はユウへの教育と自分の保身のためにさんざんさわいだんだけど、子犬のような目でお願いしてくるユウに最終的には折れた。

この子本当に甘え上手で。ああ。

意を決して店に入る。今日はタツも働いていて、事情を知っているらしく私に敬礼をする。やめれ。

奥の座敷に通され、思い切って襖を開ける。

はたして。

そこに座っていたのは、ほっそりとした色の白い、それはそれは儚げな美女だった。

マジで。

彼女は泣きそうな目で私たちを見上げ、私を全く無視して「ユウちゃん・・・」とささやいだ。

とろけそうに甘い声だった。

・・・アジャコングみたいなのがいるほうがマシだった。

固まってしまった私の肩を掴んで、ユウは私を彼女の向いに座らせ、自分は私の隣に必要以上に引っ付いて座った。



「えー、コイツがトモ。彼女。」



すっかり固まってしまった私にゆっくり彼女の濡れた目が向けられる。



「・・・うそ。」



「イヤ、本当!な!」



「・・・・・」



「・・・うそ。そんなことぐらいわかってるわ。あなたに今彼女がいないくらい。」



よくかんがえたらそうだ。

ずっとストーカーしてたらソレぐらいわかるだろ。今ごろ気がついた。



「じゃあなんで会いたがったんだよ。」



「ユウちゃんのお友達とお話してみたかったの。」



・・・なんか・・・こわいんですけどっっ!!

彼女の周りだけ、なんかこう流れている空気が違います。

彼女にあこがれているときならソレが何ともいえない魅力に見えるのでしょうが。今この状態。

なんだか怖いです。



「すこしトモさんとお話したいわ。ユウちゃん、席外して?」



ギャーーーーー!!!置いてかないデーーーッッッ!!!!

逃げるように席を外したユウは、遠く店のカウンターの中からタツといっしょに焼酎の1升瓶を振っている。



オ ゴ ル カ ラ ガ ン バ レ



ガーーーーーーッッ!!!ふざけんなっっ!!!!!



「あー・・えーっと・・・何飲みます?」



「ねえ・・・友達といるときのユウちゃんって・・・どんななの?」



「あ・・・・」



「・・・ごめんなさいね。こんなことして・・・私だって迷惑だってわかってるのよ?」



それから彼女はおもむろに泣き出した。

細い肩を小刻みに震わせて。私はもう怖いんだか悲しいんだかわからず、

ユウはいい奴だけど、でも男としてはどうかと一生懸命悪口を言った。

遠くでユウがイスからずり落ちていた。

ユウ達といっしょに食い逃げをした話を面白おかしく聞かせたらやっと笑ってくれた。

その笑顔にすがるように、私はしゃべり続け、とうとう最後には彼女は【S】にまで付いて来てしまった。



それからストーキングをやめた彼女は、ユウの家の前に立つ代わりに【S】のカウンターに座る。



その後ユウは彼女に対して徹底的に友人という態度を貫いた。

彼女に会うと「よう!」と明るく挨拶をし、その後他の席で友人たちと楽しそうに飲む。

彼女はユウが動くたびに目で追いつつ、私相手に昔話をした。

キンキンがカウンターにいたこともあった。

人数が増えると燃えるのだろう。

無邪気に私とキンキン相手に、彼女は夢見るような目でユウとの愛の日々を語る。

彼女の甘い声とは裏腹に、ソレはかなり赤裸々なものだった。

ユウがどんなタイプの女が好きか、自分たちがどのようにめぐり合ったか、どのように求められ、どのように答えたか。

まったくユウを男として見ていなかった私ですらドキドキするような内容だった。

ましてやそんなユウをしっているキンキンはどんなキモチだったのだろう。

しかし彼女は完全なポーカーフェイスで微笑みつづけた。

そして彼女が【S】へ来出して2ヶ月ほどたった夜、やっぱりキンキンのいる席で、

彼女はユウに好きな人が出来たらしいと話した。

それは嘘ではなかった。私も聞いていた。

でも、それ以上の詳しさで、彼女はユウがいかにその女性にほれ込んでいるかをえんえんとかたり、

ぽろぽろと涙をこぼした。

私は。別れの間際に相手にすがったことがない。

私は彼女の涙に奇妙な感動を覚え、自分への発見にだまりこんだ。

その隣で。

やはり無表情にキンキンはどこかを見つめていた。

キンキンがトイレにたった。

今まで泣いていた彼女が顔を上げた。



「彼女も・・・私の仲間よね。」



・・・気づいて話してたんだ。

ユウとの日々を。事細かに。

コエーーーーーーーーーッッッ!!!!!

彼女はほとんど口をつけていなかったワインを飲み干し、去っていった。

それから2度と【S】に来なかった。



女は怖いと初めて思った。



すがることで一生懸命ユウを追いかけた彼女と、

取り乱さないことで想いを見せたキンキン。

どっちも怖いけれどいじらしくて、ああ、愛に愚かなオンナノコって可愛いなと思った。

こわいけどな。でも、その気持ちは女として痛いほど分かるし。

私はちょっとうらやましかったのも事実でした。



でも次生まれ変わるとしても私は女に生まれたいな。

男に生まれて女と恋愛すんの、大変そうだもの。



その後キンキンはユウを引きずりつづけたおかげでいい恋愛に恵まれず、ちょっとした事件がきっかけで沖縄に帰ってしまいました。

そしてここ3年ほど沖縄で惚れたハレタをくりかえし、やっとハニーができたそうです。

バンザーイ!

ん?付き合ってまだ2ヶ月ぐらいなのに1週間に1回会えばいいほう?

彼無口?コクったのはキンキンから?セックスは月1回?愛されてる実感がイマイチわかない?

んーーーー?ダイジョウブカナーーーーー?

まああれだ。がんばれ。な。島唄人気あるし。あ、関係ないか。すまんすまん。

婚約破棄をやはり超音波のような声で驚かれました。



「つかさあ、度胸あるよね、その年で

私なら怖くて出来ない!!」



おっ。名言集に参加する気ですか。

むーーーーーん。

電話を切る直前にユウとは連絡取ってるのって聞いてやったら、連絡取るきっかけがないって言ってました。

ワハハハハ。意地悪な質問してやった。ワハハハハ。



30分後



留守電

「もしもーしトモ姉?婚約破棄したんだって?ギャハハハハハ!!

 相変わらずキャッチアンドリリースな恋愛パターンだね!

 ユウでしたーーーー!!!!」





・・・・キンキンめ・・・・・。





やっぱり女ってコワイね。





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# 浅野 忠信 (2003-02-25 (火) 19:13)

久々に一揆に読破してしまったよ。人って変わるよね。尋常じゃない場合に。それが本当の自分でもあるんだろうけどさ。


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