チナウ
2004-10-19 (火) スポーツの秋。芸術の秋。読書の秋。食欲の秋。
■ 秋の夜長。
最近我が家で猛威を振るっている病がみっつ。
一つ目は卓球病。
たまたま散歩の途中で、卓球とビリヤードとダーツと漫画喫茶と麻雀ができる夢ビルを発見。
しかも漫画喫茶併設の為、ソフトドリンク飲み放題。卓球台1台1台に設置された電話で注文すればもちろんアルコールだって摂取できる。
しかも施設利用中はネイルサロンが無料という、もう盛りだくさん過ぎてどうしたいのか方向性がサッパリつかめない愛らしさだ。
そんなこんなで週一ペースでこまめに通っている。卓球台が一杯の時は、卓球スペースが見渡せるビリヤード台を陣取り、眼力で客が早く帰るように睨みつけながらキューを握る。
彼は散歩の途中にも素振りを欠かさない熱の入れようで、カットで強く回転を加える魔球を体得しようと熱中するあまり、まったくラリーが続かない緊張感みなぎる試合が続いている。
そして二つ目が写真病。厳密にはアルバム病。
彼が写真嫌いなのと、私のものぐさが見事にフュージョンして、我が家ではほとんど写真をとらない。
そんなわけで現像した瞬間は大笑いで見ていた貴重な写真たちも、今は部屋の【お客さんが来た時の緊急避難所】として活躍しているタナにほったらかしになっていた。ふと思い立ってアルバムを買って整理をする事に。
そうなると、カラーペンとか色画用紙、シールなんかをせっせと買い込み、やる気満々の私。
花見の写真にはピンクの画用紙を切り抜いて桜の花びらに。髪を切りたてで小猿のようだった彼の写真のそばには、可愛く逆立ちした小猿のイラストをコメントとともに載せたり。気分は保母さん。
ふーんとか気の無い返事をしていた彼も羨ましくなったのか、俺もするとかいいだし、2人してまる2日チョキチョキペタペタと作業に没頭した。
やりだすと彼の作る切り絵はとてつもなく緻密で、そうなると私も悔しくなる。彼に負けない派手な装飾を編み出す。
出来上がったアルバムは、彼の緻密な切り絵と私の派手で無意味にでかい飾りのおかげで、普通のアルバムの倍以上の厚さになってしまった。
無愛想に顔をしかめる彼の写真を、花びらを重ねて立体的にした大きな花の台に重ねたり、スッピンのまま半目な私に可憐な小花がちりばめられる、TPOゼロなただもう飾りたいだけ欲大量放出な世界。
ファンシーな装飾に囲まれた私のコメント文字はものすごくカクカクして、字を書くことには情熱をこれっぽっちも注いでいない事を雄弁に物語っている。
気分が保母さんだったからコメントも自然と保母さんに。
【明るい太陽の下でハイ!ポ〜ズ!】
【天気が悪くてご機嫌斜め?でも元気に駆け回って嬉しそうです。】
この平成殺伐世代、もう滅びてしまったかのような呪文が所狭しとアルバムに踊る。嫌がらせのようなコメントを見て彼が怒るので、私もどんどん調子に乗る。引くに引けない手に汗握るアルバム製作。
ペリペリはがす昔ながらのアルバム台だったので、飾りに厚みがありすぎて写真がずり落ちてしまうという本末転倒な出来。
それでもまだ飾り立てたり無い私たちは、仕方なく休みのたびにカメラを持ち歩き、お互いの写真を不毛にパシャパシャ撮ったりしている。
そして最後の病はお絵かき病。
ふとした話から、活字として受けたイメージはひとそれぞれどこまで違うものかを試してみようという事になった。
彼が、怪しい化け物というか神様というか、そんな異形の者フル出演の小説を引っ張り出してきた。お互い紙とペンを持つ。
「その者、顔はタコのように柔らかくゼリー状で、触覚のようなものに包まれている。雪男のようでありながらピンクの甲殻類で、全ての始まりであり異次元の門番である。」
「極端に姿勢が悪く、目は突起して光を持たない。全身をウロコと体毛に包まれ、声を持たない。全てを知る全知の神であり、時に3つの冠を持つ蛇のつえをついた創造者である。」
「大地の神であり、丸い光の球体の集まり。宇宙の入り口であり、全てを吸い込む触覚を持つ。そして小さな蝙蝠の羽を持ち、うずくまった出ッ腹である。」
こんな調子で読み上げられていく聞くだけで鬱になりそうな表現を、それぞれのイメージで紙に再現していく。
そこにはもう、もし私が明日交通事故にあってしまい、親がこの落書き帳を見つけてしまったあかつきには、絶対なにかおかしくなって自殺したと勘違いしかねないアグレッシブな化け物がのた打ち回っていた。自分で描いていて嫌な汗が吹き出る。
私の描く絵と彼の描く絵はまったく異なり、彼はどちらかというとそのまま挿絵に出来そうな、まとまりのあるどこか憎めないかわいいキャラクターに仕上がっている。
私は手元にある、紙一杯にシギャー!とかギキャー!!とか脳味噌が破損したとしか思えない自分の作品を見つめ途方にくれる。
同じ情報を聞いてこの差は一体なんなんだ。ずるい!とか、病んでる!!とか言い争いながら夜はふける。
これは昨夜勃発したばかりの病で、もういい年をした大人2人が平日の夜、真夜中まで熱中して描きつづけていた。
絶対嫌な夢見る怖い夢見るとつぶやきながら、異形のものを量産し続けた秋の夜更け。
比較的愛らしい系の化け物を生産していた彼が、自分の作品にチョッピリ行き詰まっていた。
表現の中に【甲殻類系】と言う言葉が出ると、どうしても描く絵がカニになってしまうという。
そして私はその夜やっぱりカニの夢を見た。
食べ放題だったけど。
2005-10-19 (水) のんびり日々。
■ 秋という季節が似合う街。
駅までの通勤途中、道の隅にエロ本が落ちていた。
M字開脚のお姉さんはインリンのように挑戦的ではなく、少し悲しげな幸薄さが昭和の香りプンプンで、それが昨夜の雨に濡れてとてつもなく切なかった。
田舎っていいなぁとしみじみ思った。
■ 「俺は新車しか受け付けないから」といった先輩の言葉がしみる秋。
入社初日、車で行った方が楽な客も多いからと専用の社用車を1台与えられた彼。
カーナビもぽんと渡され豪勢なこったと感心したらしいが。
昨日CDを購入し車内で聞こうとしたら、なんとカセットしか受け付けない代物だったらしい。
ちなみにカーナビは設置する場所がなく、助手席で彼女のように優しく絶賛ナビ中。
■ 目標が達成される頃には絶対それ忘れ去られてる。
お母さんがピアノを始めた。
どこの家にも眠っているピアノ。我が家は家を建てるとき先にピアノを入れ壁を作るという狂った建築方を取り入れたため、うっぱらいたくとも壁を壊して更に修復するコストの方が当然高いので、不況の嵐吹き荒れる中あえて見ないようにしていたはすなのに。
なんでも各自自主練習し、月に2度駅前の公民館に置かれたグランドピアノを皆で弾きあうという会に入ったらしい。会の名前は、うちの彼が言う所の業界一のドS芸能人が歌った名曲のタイトル。そのままやん。
システムとしては年会費200円を払い、当日は設置された箱に300円入れ、来た順から好きな曲を弾いて、そのあとは他の人が弾くのを聞いてもいいし帰ってもいいというルール。
それおもろいんかと突っ込みたくなったが、本人は「ママ向上心が旺盛だから!」と向上心と好奇心をごっちゃにしながらもご満悦だ。
皆独学練習してきた曲を毎回5分から10分くらい弾くらしいが、中には当然経験者もいるらしく、「【エリーゼのために】とかをかっこつけてダラダラ弾く人がいるのよね!」といまいましげに言うお母さんの最初の選曲は【こいのぼり】だった。
「【エリーゼのために】とか、有名だけどきいてておもしろくないのよ!ママはもっと面白い曲を弾けるようになりたいのよ!スマップの、ホラホラあれ!」
「世界に一つだけの花?」
「そうそうそう!!」
面白いというよりミーハー魂炸裂で、そもそもピアノの会ならエリーゼのほうが場の空気を読んでいるように思うのだが、本人がはりきっているのでそっとしておく事にする。指を動かすのはボケ防止にかなり効果があるらしいので、このままがんばってもらいたい。
もともと何かを始めるとものすごい勢いでのめりこむ性格の母。卓球も社交ダンスもゴルフも右肩上がりで成長しそこそこうまくなるのだが、自分の限界をキッチリ知っているらしく、それに当たると「制覇した。」と満足するらしくアッサリ辞めてしまう。ちなみに自慢は【社交ダンスは映画ではやる前からやっていたからそこらへんのミーハーとはちがう】といういばるポイントがいまいち理解しにくいものだったが、同族嫌悪ってこういうことをいうんだなぁと教えられた一言だった。
先日はバレエ(躍るほう)を習ってみたいと狂った事を言い出し、家族全員を軽く動揺させた。本人はオデット姫とかそういうのに憧れての発言だろうが、自分の立ち位置は股間から白鳥が伸びたコスチュームだということを根本的に理解していなかった。本人の願望と周りが求めるものとのギャップがありすぎて、これは絶対戦争勃発の元になるという危険をはらんだものだったので、兄弟の力を合わせて全力で興味を別のものにそらせた。兄弟の力をあわせて誰かを説得するのは、だいちゃんがアムウェイに3日かかって洗脳されたのをユウちゃんと3時間でといた、10年前の壮絶な聖戦以来だ。
その直後に興味を持ったのが今回のピアノ。その害のないマイブームに皆大賛成。唯一続いているゴルフ共々頑張って欲しいものだ。
「目標は3年後よ!」
早くも3年先を見据えて目標をもたれたらしい。頼もしい限りだ。
「みていて!!3年後には【冬ソナ】を弾いてみせるわ!!」
3年もかけてそこをお目ざしになられるのですか。