チナウ
2005-11-04 (金) 自業自得。 [長年日記]
■ ですよねぇ〜・・・・・。
ジュンコにお金を振り込んだ。
ジュンコを含む大学時代の友人グループという奴が、私、キョウちゃん、ユカちゃんを含め10人いる。
女子大だったので全員女で、これが今よってたかってバンバン子を産んでいる。
私たちのルールで、子が生まれるごとに一人3000円出し合いお祝いをする。
3000円ですむあたりが大人数の強みだし、主婦となった友人たちが中心となり音頭を取ってくれ全て手配してくれるので、独身組みは大変ありがたい。が、私とキョウちゃん以外は皆関西で、子が生まれたという情報は入るものの実物を見ていないので、子供の名前はおろか今男の子がいるのか女の子がいるのかという性別や、いやすでにもう、正直だれに何人いるのかすら正確に把握できていない状態だ。
誰が離婚しただの、クミは結局フランス人と結婚してあちらで御式+生活だからお祝いだけ送るだの、子供のお受験のために朝一番に並んだだの、もう2人っきりの独身チームとなってしまった私とキョウちゃんを引き離し牝馬は爆走、われわれは2週も3週も周回遅れでホエーと草を食んでいる。 友人たちはなかなか裕福なマダムに成長し、関西ではイカリで買うばか高い野菜の話か、私たちチンピラ関東組みの心配をしているらしい。
キョウは自称ミュージシャンと付き合っているらしいし、トモは年下の男性と同棲している。自称ミュージシャンなんてお金がないに決まってるし、男性は所詮若い子が好きに決まってるからお先真っ暗だ。ところで○○幼稚園の願書っていつから並んだの?まあそうなの、縁故入学はやはり強いの?やっぱり口に入るものは少々高くても安全なものがいいじゃない?あらこのケーキおいしいわ、やっぱりケーキはツマガリさんよね。
そんな誠意と誤解渦巻くお茶会が開催されているらしい。
キョウちゃんの彼はちゃんと勤めている音屋さんだし、私と彼は(若い子は好きだろうけど)うまくやっている。
そんなわけで今回も、誰かが子を産んだというので、それはめでたいと今回リーダーのジュンコにお金を振り込んだ。しかし、連絡があってからすっかり忘れていて、なんと2週間もたっていた。ここは侘びの一つでもと、郵便振込みだった為、振込みオプションについているメッセージを添える事にした。内容は字数制限もあったのですっきりと用件のみを。エレガントに。
【ペロリと忘れとった!すまん!おまん!子は元気か!又会いに行くぞ!プー!】
勢いであやまってまえとばかりに【!】を乱発した。
その昔、【おしん】というNHKドラマがあった。世に【ダイコン飯】というグルメを紹介し、泉ピン子の腹黒イメージを拭うどころか、貧乏臭いところだけをフューチャーしてみせたという優れた脚本+演出の伝説的なこのドラマ、のちにケナゲな主人公おしんの子供時代を演じた役者が大人となり、なんだかブン殴りたくなるような女と成長して【あの時流した涙を返せ】と元視聴者を泣かせるというおまけもついた。
そのドラマの話になった時、ジュンコがあれは【おまん】というドラマだったと問題発言した。そもそもNHKがそんなタイトル許すわけがないと冷静に考えれば分かりそうなものだが、シモネタが三度の飯より好きなジュンコは、だんだん間違いに気が付いてもウヘヘと気味の悪い薄ら笑いを浮かべるだけで訂正しない。その日以来、ジュンコは私達から時々おまんと呼ばれおちょくられている。
そんなわけでこのメッセージ。全部カタカナになるというので、
【ペロリトワスレトッタ!スマン!オマン!コハゲンキカ!マタアイニイクゾ!プー!】
となる。遅れた侘びだ。少しだけでもジュンコの好きそうなムードに持っていき、ウヘヘと思わせてやろうじゃないか。
そんな私の心の優しさに対し、郵便局員は信じがたい事を言い放った。
「確認の為、音読して下さい。」
「・・・へ?」
それって確認しなくてもいいんだけど・・・読めるよね?私字汚いけど、読みやすいってよく言われるよ?
いや。わかるよ。女子にこんなのを読ませるのはかわいそうだと思うよ。こんなのを書いた私が悪いよ。私は化粧っけのない郵便局レディーに顔を寄せ、ヒソヒソと読んで聞かせた。もちろん、【オマン】と【コ】の間はものすっっっごく間をあけて。スタッカートに。(スタッカート?)
プーまで読んだ時、後ろでクスリと笑い声がした。
次に郵便局レディーは、メッセージをつけると余分に金がかかるけどいいのか?ときいてきた。そりゃそうでしょうとOKしたらば、つぎは一文字いくらかかるけど本当にいいのか?と又聞いてきた。全部あわせても500円もかからないものを、何を何度もと思いつつOKしたら、今度はお金は明日までに振り込まれるけど、このメッセージは郵便で送るから1日遅れで届くけどいいのかとしつこくきいてくる。だ・か・ら。ええっちゅーねん。
そしたらなんだかしぶしぶ。本当にしぶしぶパソコンに入力し始めた。あれかな。こんなばかばかしいの打つのがやなのかな。そう思いながら待つ事5分。
いやいやいや。5分て。上記のたったアレだけの文章打つのに5分て。
というか、まだ打ち終わらないし。もめてるし。
「内田さん内田さん、ビックリマークが出ないんです。」
「これでどうだ。これでどうだ。」
「出ないんです出ないんです。」
「これでどうだ。これでどうだ。」
・・・・・。あのー。昼休み終るんですけど。アレですか、ビックリマーク、出し方わかんないから打つのやだったんですか。
「あ!でた!!」
「斎藤さん!【ン】の後にビックリマークだよ!【コ】の後じゃないよ!」
おいおいおいおいおいおいおい。わざとだろ。それ。
民営化してまえ。
2005-11-09 (水) 平凡な人間は [長年日記]
■ 強烈な個性に出会うと生きるためのプログラムが狂う。
近所でうまいと評判の鰻屋へ行った。
歴史も有り店構えも古く大きく味がある。
すいてたし、せっかくだからまったりして、昼まっから酒飲んで焼けるのをまつべぇと奥の座敷へ進んだ所、想像しなかった異空間に迷い込んでしまった。
小さな座敷には畳一畳近くあるような大作イラストが3枚も飾られ、せっかくの歴史ある落ち着いた店内を台無しにしている。どうやら大将の力作らしく、滑るように書かれた【BY:大将】というサインが自信を覗かせている。
そんな自信まんまんのこのイラスト、精神を病んでいるとしか思えないほどの過激な前衛ぶりで、書いた人はもちろん、それを飾った店内でニコニコお仕事をこなす嫁さんやパートのおばちゃんたちには頭が下がる。
イラストのベースは色んなキャラクターや人物の写真をそのままトレ-スし、所々をコラージュ、そこにど派手な着色をほどこすというスタイルらしい。ただそれだけなのにこれだけ見るものに鬼気迫るパンチを与えるのは、作者の持って生まれた才能か、今までさばいた鰻の呪いかはわからない。
七色に光るドラえもんが、人間と同じ5本指でガッチリとマイクを掴み演歌を熱唱しているという構図は、とうてい常人にはたどりつけない発想だ。
目がハートで舌を出したおなじみの表情で、大ぶりのマイクを手に気持ちよさそうに歌っているだけなのに、大将レインボーの色彩が駆け巡るもんだから、おなじみの表情も確実に性犯罪の域に達している。そこには、全世界を魅了した親しみやすいアイドルの姿はなく、ミーガン法で過去未来に渡って監視されても見劣りしない奇怪なイキモノが躍っている。
また、切るというより駄洒落を連発する羽田陽区がフキダシ付きアメコミ仕様で大量にいるのだが、どうやらトレースするオリジナルが1枚しかなかったらしく、まったく同じ顔・同じアングルで、ウザさ炸裂に散りばめられている。
その隣では、本物よりさらにど派手になったマツケンが、空室を知らせる夜空のラブホテル光線のように後光を発している。(子供の頃アレは脱走兵を知らせるものだと思っていた。)
しかしさらに問題作なのは、トレースしない大将オリジナルのイラストで、山咲トオル(梅図じゃないところがミソ)・山田花子(漫画家のほう)・御茶漬海苔・日野日出志に確実にインスパイアされたとしかいいようがなく、比率で言うと【絵:山咲5 御2 日3 山田∞ / ノリ:山100 御100 日100 山田∞】という最悪の黄金率となって炸裂している。
大将がそのセンスをかけて書くギャル2人の絵が、古いとか新しいとかを超えた崩壊ぶりで恐ろしい。(もげて皮一枚でつながっているようにしか見えない首や、ビンディをつけまくった皮膚とか。)
しかもセリフ選びも際立っており、ギャル2人が生の宿らぬ目で虚空を見つめながら、お互いを心で罵り合うという、ここが鰻屋だということを忘れてしまう異形空間ぶりだ。
羽田陽区の駄洒落にならぬ駄洒落といい、大将は絵だけでなく言葉遊びの才能も突起していそうだ。
先ほども少し触れたが色彩センスも抜群で、どうやら大将のお好みは夢への掛け橋レインボーカラー、精神を破壊するにはもってこいの派手で目に痛い配色は、嫌悪を一周してさすがという感動すらこみ上げてくる。例えそれがチューブからブチューと出して直接塗っただけのブルーであったとしても、その前に大将お得意のオリジナルキャラクターが乱舞するだけで、見るものを絶望的に死にたくさせてしまう。北野ブルーを軽々と乗り越えるインパクトで、あの色なら座頭市にも見えるかもしれないが、常人の目には突き刺すような勢いだ。
趣のある店でさしつさされつまったり飲み食いしたかっただけなのに、炸裂したパッションに元々ありもしない感性も味覚も見事に破壊され、当然鰻の味も下降を辿る一方。
鰻を前にして私の強靭な食欲が萎えるという、人生はじめての敗北感を味わった。
そんな駄洒落だけでも人に殺意を持たせる羽田陽区を量産した大将だが、【なぜかヨン様だけは褒めちぎるギター侍】という、明らかに嫁とパートのおばちゃん連中を意識した天才らしからぬ異質作品が混じっていた。ヨン様は地震に義援金を出したから自分には切れないとかいう、駄洒落すらないすこぶる歯切れの悪い文字が消極的に躍り、その下にはトレースすることを許されなかったのか、週間誌か何かをコピーしたような無難なペ様が無色で微笑んでいた。
そしていたるところに、【この店の大将と奥さんとラブラブ〜】とか(推定年齢60以上)、【店じまいする時は大将死んだ時?ウソーン!】とか、口が裂けてもヨメが死んだ時とはいえない空気が、ヤケクソ気味にハートを散りばめ、居心地悪そうに鎮座する文面に漂っていた。
アーティスト以上の鬼才を持ちながらもヨメは怖い、そんな人間臭い大将のジレンマを垣間見たようで、私は少しだけほっとし、
それを頼りに残りの鰻をなんとかごくりと飲み込んだ。
2005-11-14 (月) なんかあったよね。 [長年日記]
■ そんな深夜番組。
新しい町に来て一ヵ月半。
前より外食が増えてしまったのは反省点でも有り幸せ点でもある。
彼は相変わらず忙しく、ゴハンがいるいらないの見極めが難しい。私は一人気楽にお風呂に入ったりバラエティーを見てゲラゲラ笑ってゴロゴロ過ごし、彼が帰った深夜の軽い晩酌というパターンが増えつつある。
彼は仕事で大変なのに、私を一人家に待たせている事をかわいそうだと思ってくれているようで、少しでも早い日は飲みに連れて行ってくれたり、ケーキがおいしいと評判のお店を見つけてはお土産に買ってきたりしてくれる。
ここしばらく休みの日は曇りばかりだったので、日頃陽の当たらない社内にずっといる私(そのうえ隣は天然こんがり色のクボちゃん)はイリイリイリイリしていた。この前の土曜日は1ヶ月ぶりくらいにカラリと晴れたが、前日に彼と彼の会社の上司と初対面の癖にまた冗談のように飲みまくり、カラオケでシャウトし4時近くに帰宅、翌日彼はココ最近で一番激しい二日酔いとなってしまった。
相変わらず二日酔いしらずの私がベランダで洗濯物を干しながらぼんやりしていると、
「・・・うっ・・・・い・・・いぐかぁ〜・・・ほら・・・あの・・行ぎだがっでだ・・・なんが・・おーぷんでらずのいだりあん・・・だっだっげ〜・・げーーーーー・・・」
と地を這うような声とともに彼がズリズリとベットから這い出してきたかとおもうとトイレに直行、数分後涙目でフラフラと出てきてまた布団に沈没、近寄ってみると念仏のように、「オーブンデラズー・・・ビリヤードー・・・」とケナゲにつぶやいていたが、その日のお出かけは諦める事にした。私が太陽にあたりながらゴハンを食べたい!と言っていたのを覚えてくれていて、必死にかなえようとしてくれているのが痛いほど分かったからだ。
この週末も土曜は出勤だった彼。
朝7時ごろに家を出て帰ってきたのは日付変更のギリギリ前だった。
日曜日はよく晴れたがさすがにかわいそうになって、お昼ご飯を食べたあとは積極的にゴロゴロして休ませた。そしたら夜は何が食べたい?何か作るよ!と気を使ってくれるもんだから、せっかくの貴重な休みゆっくりしなよと言ったんだけど、結局焼き鳥食べたいとか言っちゃって、よっしゃよっしゃと食べに連れて行ってくれた。
今度の土曜日も出社だから、それが落ち着いたら温泉でも行こうねと約束までしてくれた。
この人、こんなに気を使っていては早死にするんじゃないかと心配になった。
食事の帰りに寄ったTSUTAYAで、お約束のエックスファイルを借りたが、お会計の時彼がこれも借りてと1枚DVDを差し出した。
【Aー女 Eー女! 集団淫乱催眠術!】
・・・・・・。
長生きするよ。きっと。
2005-11-19 (土) 土曜日だというのに。 [長年日記]
■ そんな大人の休日。
本日も彼は出勤。
しかも6時おきの早出のため、彼を見送った後もう一度眠る。
目が覚めたら【まごまご嵐】がやってたので、あわてて起き洗濯機を回しながらどんべいを食べる。
携帯でメールチェックをするも電源が入ったり切れたりと調子が悪く、どうやら本格的にだめなご様子。 今までテレビのリモコン疑惑をぬぐいきれなかったカメラもついていない愛器(折りたたみですらない)、3年という長く、そして私の激動時に寄り添ってくれた相棒だが、いよいよチェンジに行くかと重い腰を上げる。
洗濯物を干し、どんべいのカップをキッチンにやり、掃除は後でいいかと考え出かける準備をする。
簡単に化粧をし、ジーンズのポケットにむき出しの1000円札3枚と銀行のカード、コートのポケットに携帯と鍵と高野文子の【るきさん】をねじ込んで家を出る。
ポストに入っていたはがきもポケットに入れ、コンビニで1万円を下ろしDocomoへ。
ポイントがたまっていたので、結局一番安いのでいいやといったらお金を使わずすんだ。カメラもついている。
そんで、お金浮いたなぁと思いながら近所のリサイクルショップの前を通りかかると、なんと新品同様のきれいなママチャリが7000円で売り出されている。
見ているとオネェサンに、「3段階ギアつきですよ!」とそそのかされた。
なんだかその【3段階ギア】という魅惑の言葉に取り付かれ、気がついたら目の前が自転車屋のその店で、親父が睨む中購入してしまった。
ご丁寧にポッケには、盗難防止登録のために身元を証明する郵便物がある。運命だ。
新しい相棒とめぐり合い、家の目の前だったが回れ右をし、とりあえず軽くドライブに行くことにする。
なんか家から、歩くにはたるいが自転車ならいけるという距離に、小さな小川の流れる公園があるらしい。早速相棒を走らせる。
相棒は軽快に走り出し、大きな川をひとつと小さな川をひとつ越えた。坂道も3段階ギアがあるから楽勝だけど、今はまだ最初の1段階のみで進んでみる。
入りくんだ住宅地をぐるぐるした。
迷った。
大体の地図は覚えてるつもりだったが、私は方向音痴だった。
ぐるぐるまわる。2人ぐらいに道を聞く。
何とかたどり着いた公園は小さく、小川もしょぼかったが、側にあったパン屋さんでできたてのホットドックと牛乳を購入し、小川のほとりのベンチで食べた。
ちょっと幸せになった。
さあ帰るべとひざのパンくずを払い、また相棒にまたがり颯爽と走らせる。
また迷った。
なんか、地名とかまったくわかんないし、自分が来た方向もすっかり見失ってしまう。少し大きな通りに出たので道路表を見るが、まったく知らない地名と無機質な国道名が記されている。
呆然とする私の隣を、まったく聞いたこともないような地名を目指すバスが走る。
あせってぐるぐる走る。余計わからなくなる。
しょんぼりしていると、どこからともなくおニクの匂いが。
ニクを焼くにおいがする!!と、私は猛然と走り出した。(ギアこの時点で2段階)
たどり着いたのは公園脇にあるやきとりやで、店の外にテーブルもあり、お酒を飲むおじさんや、若いお母さんに連れられた子供たちが、おいしそうに焼き鳥をほお張っている。
おなかはそんなにすいてなかったが、寂しくなった私は人とのふれあいに飢えていた。
とりあえず1本100円のねぎまとすなぎもと皮を塩で頼み、発泡酒の缶と一緒にテーブルのすみに陣取った。
足元に子供がよってくる。子供が私を見上げる。
おかあさんがこらこらマー君だめよとかいうので、かわいいですねと声をかけてみた。
「・・・ところでここどこですか?」
「は?!」
お母さんはびっくりした顔をするので、実は迷子になっちゃってと照れ笑いしてみた。
お母さんは、この道をずっとずっといくと駅ですよと苦笑いで教えてくれたが、そこは私の家の最寄り駅から4駅も離れた所だった。
マー君が、迷子なの?お母さんは?と聞くので、なんだか無性に寂しくなってきた。
若い親子に別れを告げ自転車を走らせながら、私はまだなれない新しい携帯でお母さんに電話してみた。
まさか迷子になったとはいえず、元気?と問いかけたところ、【私の頭の中の消しゴム】がすばらしかったと熱くネタバレされた。
電話を切ったらますます寂しくなってきて彼に電話しようかと思ったが、彼も仕事中と我慢し自転車を走らせる。
川を越えたりするうちに、またなんだかわからなくなってきた。
橋のたもとに、車で野菜を売る老夫婦を見つけたので道を聞いた。
迷子になった旨を関西弁で伝えたところ、「まさか大阪から?!!」とおばあちゃんにいわれた。むちゃな。
おじいちゃんが心配して、もう夕方だから店じまいして送ってやろうかとまで言ってくれたが、相棒もあるので大丈夫と強がって、ざくっと道を聞いてまた走り出した。
振り返ると老夫婦が、心配そうにいつまでもこちらを見送ってるもんだから、私は何度も振り向きながら笑顔で手を振って見せたがものすごく寂しかった。
冬の陽は薄情なほど短い。
だんだん薄暗くなる中住宅街をひたすら走る。寒いがコンビニすらない。鼻水が出る。
暮れ始めた街中に、やっと小さな明かりを見つける。地域密着型のさびれた喫茶店だった。
ショウウィンドーに飾られた大振りなカップのコーヒー230円に魅せられて、カウベルのついた木製のドアをカララと開ける。
奥には。なぜかカラオケセットが。
地元のおじいちゃんおばあちゃんがカラオケ大会をしていた。
あわてて出ようとする私に、常連らしきおじいちゃんが店から飛び出して追いかけてきてくれた。
むげにもできず覚悟を決めて店内に入り、片隅ですすったコーヒーはそれでも体に温かさをくれた。
そのうちカラオケ大会のメンバーが、あんたも歌いんさいと狂ったことを言い出した。
いや、オンチだからと精一杯断ったが、若い人が珍しいらしく、老人軍団が一致団結してマイクをぐりぐり押し付けてくる。
しかたなく、老人にもわかるようにと山口百恵の【いい日旅立ち】を歌った。こんなときにも人に気を使う心優しい自分を記しておきたい。
「ああ〜 日本のどこかに〜 私をまってる〜 人がいる〜 ・・・」
泣きそうになった。家に帰りたい。
今この瞬間、この歌を私以上に感情をこめて歌ってる人がいるだろうか。(いやいない。)
そんな私の心を察しようともせず、お年より軍団は「たしかにアレだけど声量はある。」とか、微妙に正直なコメントをザクザク投げてくる。
結局コーヒーもおまけしてもらい、私は自分の歌唱力と恥をコーヒーにかえて店を出た。道を聞こうかと思ったが、あの年頃の紳士淑女は親切が暴走しがちだ。
なんとかさっきの八百屋老夫婦の教えを思い出しつつ自転車を走らせた。
駅に出た。最寄り駅から6つも遠ざかっていた。なんで?
見慣れた電車が目の前を通過する。いっそのこと相棒を置いて乗って帰りたい。
しかし、苦しいときほど一緒にいるのが相棒じゃないか。いや、苦しみをともに乗り越えてこそ相棒じゃないか。
私は気を取り直し、線路沿いに走り出す。相棒も私のためにパワーを発揮してくれる。(この時点で3段階)
しかしこれが、駅間が遠い。これだから田舎は。
日はすっかり暮れた。今日のお月様は、黄色に血を混ぜたようないやな色のオレンジだ。
寒い。さっきのコーヒーは、自分の歌声の寒さで効力が半減となっていた。
家から漏れる光に、この一つ一つに生活があるのかと思うと切なくなる。焼き魚とか、シチューのような洋物汁系の香りがまた私の望郷をそそる。
たまに見かける宅配ピザ屋の香ばしい香りをかぎ少し元気になったり、【日焼けサロン・ちびくろさんぼ】とかいうストレートすぎる看板に戸惑ったり、【パーマ・ぺペロンチーノ】という美容院の看板のセンスに心底戸惑ったりしながら走った。
さらに走ると、またぽつんと光が。
なんと私の大好物メキシコ料理屋が。しかも店先には【あったかいカクテルはじめました!】とか、ドッキリとしか思えないタイミングのよさで掲げられている。罠か?
扉を開けたら床が抜けて、海外へ売られてしまうのではないかと思いながらも店内へ。
暖かい店内でコロナをイッキした後、チキンタコスとアボカドのサラダをホットウィスキー(カクテルじゃないし)で胃に収める。
マスターに迷子になったと伝えたら、ものすごく珍しいといわれた。そんなオーバーなといったら、っていうか大人の迷子って言うのが新鮮ですねといわれた。
体が少しあったまったので、今のうちにとまた自転車に乗り、ようやく愛するわが町にたどり着き、コーヒーが飲みたいのでそれくらいならとこの漫画喫茶にたどり着き、たった今コーヒーをブラックで3杯飲み干したところだ。
長くて私には大冒険に感じたが、客観的に見るとしみったれた一日だった。
2005-11-21 (月) ボクとチナウとミクチーと。 [長年日記]
■ 今日は一日林家ナイズされてました。
携帯を新しくしたらカメラがついた。(今更ですが。)
ワーイとかいいながら、なんか色々パチャパチャとってたら、見事なほどどうでもいい写真がたまりまくった。
そんなわけでココにはろうかと思ったが、あまりにもくっだらなさすぎるのでmixiにでもはる事にした。
くだらない写真ははらないのにコーちゃんの似顔絵は嬉々としてのせるあたり、自分でも基準というか線引きが分からなくなっている。
自分の中でこれははるはらないで考えると、例えば上手にマニキュアが塗れた☆な乙女写真はここにはのせないだろうが、コーちゃんのムダに長いまつげのアップなら貼っつけるだろうなとか。オオノのアフロはのせるなとか。
中途半端にマニアック。(そして誰も嬉しくない)
2005-11-25 (金) あの日あの時あの場所で [長年日記]
■ 君に会わなかったらー。
またまた友人に子供が出来たらしい。またか!
今回はきっちゃんがリーダーだという事でメールが入った。
【郵便局からの振込みメッセージみたよ!ジュンコが面白がって持ち歩いてるよ!】
・・・・ジュンコめ。
今でこそオモロキャラのジュンコだが、その昔、知り合ったばかりの頃は私たちを相手に恋多き女を気取り、恋愛指南をしようとしたというものすごく恥ずかしい過去を持っている。
その頃、キョウちゃんがアクションチームの先輩に恋をした。
恋どころか生き方全般的に不器用な奴の行動に、当時の私たちはハラハラしたり、時には涙が出るほど爆笑したりしていた。
キョウちゃんが勇気を振り絞って先輩を映画に誘った。アクションチームの恋だから、選んだ映画は当然チェン オブ ジャッキー。前売り券をもらったからという口実だが、もちろんそんなものあるわけがなく、当日券という名のあのちゃちな紙切を手にして勝負に挑むキョウちゃん。デートと思っているのはキョウちゃんだけで、とうの先輩はおえーっすとか言いながら眠たげに15分遅刻。当日券を見られないようにと入口でこそこそ出そうとするがそこは生き方が芸術的に不器用なキョウちゃん、お約束でマンガのようにつんのめり、手からは小さな半券の紙切れがヒラヒラと舞い散り、「はい。これ。」と普通に先輩に手渡され赤面する。見終わった後も先輩の「あんまおもんなかったな。」の心無い一言に打ちひしがれ、「じゃ、俺バイトだから。」とお茶もせず解散。もうだめだ脈まったくなしだとくじけるキョウちゃんを肴にゲラゲラと笑いながらお酒を飲む私とユカちんに、もっともらしい恋愛論を垂れ流すジュンコ。酒も回り、ジュンコの舌もすべらかとなり、酒で麻痺した私たちの脳味噌もジュンコのラブ☆論になんだか訳が分からないまま納得しかけた時、ジュンコが絶妙のタイミングで名言を吐いた。
「男はね、ワンナイトラブができる生き物なのよ。」
まてまてまてまて。ワンナイトラブて。ワーンーナーイートーラーブーてーーーーー!
総突っ込みを受けるジュンコは苦し紛れに更にバクダン発言。
「なによなによ、私はね、この前よく当たる占い師に【肉体の芸術家】って言われたんだから!!」
にーくーたーいーのーげーいーじゅーつーかーてーーーーー!!!
【今の話の流れに関係ないやん】【あんた何相談してんねん】とまたもや総ツッコミしたが、酒に酔った私たちの声は思いのほかでかく、肉体の芸術家発言は小さなコジャレバーに響き渡り、気がつけば店中の人が私たちの会話を全身全霊で盗み聞きしている状態となってしまった。
店をそそくさと出る私たちに連れられたジュンコは、それでも店の外でユラユラとゆれる怪しげな踊りをあみだし披露。それを伝授してもらううちに酔いが余計にまわる私たち。その後キョウちゃんが明日先輩に渡すという手作りクッキーを絶妙のタイミングで取り出した。味見をしたら、クッキーをどう作ればこんな不愉快な味になるのかという刺激的なまずさで全員がリバース。頭痛と悪寒まで感じ始めた私たちは、一番近いユカちゃんの家に泊まりこみ、翌日仲良く二日酔いで学校をサボった。
そんなダサイキョウちゃんを尻目に、狙っていた彼をまんまと落としたジュンコ。口説いたくせにしかたなく惚れられたというスタンスを貫きたいという無駄な乙女心が、ジュンコのシンプルな脳味噌と直結し無意味なウソを連発。またもや総ツッコミにあう。
「・・・で、その後お泊りしたの。」
「芦屋のラブホなんていくなよ。地元やん。」
「ちがうのよちがうのよ!!新しいパンプスが痛くて靴づれおこしちゃって・・・。終電もなかったししかたなくよ!!」
「カッター持って自分でザクザクやったんとちゃうんか。」
「家近いし帰れたやろ。」
「ちがうのよちがうのよ!!終電がなくてしかたがなかったのよ!!」
「・・・・・。」
「でね、部屋に入ってからおなかが痛くなったからちょっと寝転んで・・・」
「自分から布団に入ったと。」
「ちがうのよちがうのよ!!緊張もあっておなかが本当に痛かったんだから!!だからあっためようとおもってお風呂に入って・・・」
「自分からシャワーを浴びたと。」
「ちがうのよちがうのよ!!おなかが本当に痛かったんだから!!」
「・・・・・。」
「彼はとてもやさしかった・・・・」
「やっとるがな。」
「いたしとるがな。」
「そのあと窓の外にはじけた芦屋の花火を、私は多分一生忘れない・・・」
「ちょっとまて。どこの世界に終電過ぎてやってる花火大会があるのよ。」
「!!!!!!!」
「あーあ。花火って大体9時ごろに終るんだよね。」
「全然電車走ってるやん。」
「帰ろうと思えば帰れるやん。」
「お泊りパックにすらなってない時間やん。」
「やる気まんまんやん。」
「・・・ぅぅぅ・・・ウワーーーハッハーーーーーッッ!!ハハハハハーーーッッ!!」
「!!!!!!!!!」
「そうよそうよやってやったわ!!!やってやったわーーーーぃ!!!」
「うわ。きれた。」
「やってやったわ!!カッターで足ザクザクしてやったわ!!!」
「こっわーーーー!!」
「おいしくいただきましたわーーーーーーーー!!!」
その後も開き直り、聞いてもいないのにガンガンエロトークを炸裂させるジュンコ。途中から真剣気持ち悪くなり、耳を塞いでワーワーいう私たち。
このアタリからジュンコの汚れキャラは定着し、その後は自虐ネタを大得意とするいじられダイスキシモシモ大王へと成長した。
初めていったホテルが【パリ】という、地元では超有名な下世話ホテルだったという過去を罰ゲームでカミングアウトしたキョウちゃん。そんなキョウちゃんに、「私はベルサイユ!さすが私たちフランス文学科だね!」とウンザリするような一言を、罰ゲームでもないのに自ら曝露して全員を萎えさせたジュンコ。
彼が出来たばかりのエミコに、某ラブホテルがステキだったと執拗に勧めるジュンコ。ご丁寧に部屋番まで指定し、とにかくステキだったから言って来いというもんだから、よせばいいのに行ってしまったエミコ。値段、内装ともにどってことないフツーの部屋。特徴といえばテーブルにどっかりと置かれた立派すぎる落書き帳。そのハードカバーを何気なく開くと何ページ目かに見覚えのある文字が。
【ウェルカムエミコ!!ジュンコとひーちゃんのお部屋へようこそ!!今ココで誓います。私はひーちゃんの事、ずっとずっとDA☆I☆SU☆KI・・・DA☆YO!!! 】
【俺も大好きです!一生かわいいジュンコを守るよ!!】(←あきらかにこれもジュンコの字)
何がしたいのかサッパリ分からないジュンコの嫌がらせに、一同の非難が集中。【・・・DA☆YO】がまた最高にむかついたとはエミコ談。
それでもジュンコはひるむことなく、「あそこ、天井にも鏡あったやろ。お風呂は中の温度があがるとガラスがすけるやろ。」とか反省の色ゼロで、ニヤニヤといやな薄ら笑いを浮かべていた。
時がたち、今やジュンコも立派な二児の母。
可愛い息子2人を前にし、そのうちこの子たちも茶髪鼻ピーギャルを彼女として連れてくるよとかいって冷やかしていたら、底力のあるどすのきいた声で「そんな奴らしばく。」とつぶやくステキママとなった。
見たくもないのに目の前で子供に母乳を与え始め、気持ち悪いからあっちでやれと文句を言う私たちにむかって「ザ☆授乳ショー」といいながら襖の陰からチラチラみせるジュンコ。コーヒーを入れてくれるも砂糖しか出さず、あきらかに「ミルクは?」といわれるのを待っているのがミエミエだったので黙ってブラックで飲む私たち。
成長したのかしてないのか。
それでも青春は確実に過ぎ去った。
と。
そんな事を思い出しながらきっちゃんに振込みに行った。メールは、【私もメッセージ欲しいから郵便振込みにしようかと思った】とか、プレッシャーとしか言いようのない一言で締めくくられていた。何か面白い事しようかと思ったがめんどくさくなって、振込み人名をなげやりに【ボビー・オロゴン】と入力しておいた。
しばらくしてきっちゃんからメールが届いた。
【ウフフフフ。手抜きね。】
えらい言われようやな。
# ふさ [もうなんかさすがとしか言いようが無い]
# (・ε・) [ふっさんが郵便局員だったら、有無を言わさず【コ】のあとに【!】入れてしらんぷりするんだろうね。]
# (・e・) [それはもうためらいもなくね。グッサリと。]