チナウ
2004-12-06 (月) 愛に生きる、その時君は暴走列車。① [長年日記]
■ 出会いは偶然暴走は必然。
朝の通勤ラッシュの中、奇跡的なめぐり合わせで私ははせやんにバッタリ出くわした。
肩をぽんぽんと叩かれて振り向くと、下膨れのプックリした頬と、散切り頭、クリクリした目が上目遣いに私を見上げていた。
「トモぉ・・・久しぶりだね☆」
ブリッコという言葉はとうに死滅していても、彼の中には確実に存在しつづけていると私は確信した。
はせやんにはじめて出合ったのは今からもう5年以上も前、当時の私は自由気ままに毎晩のみ歩いていた。
その日も、ご近所の沖縄レディー・キンキンと一緒に駅前の屋台でおでんを突っついていた。
そんな私達に酔っ払った目で声をかけてきたのが彼だった。
体に合っていない大きなスーツをだぼだぼさせた小太りチビボディ、くりくりした目で下膨れな彼は、強烈な新入社員臭をぷんぷんさせていた。
彼は泣きそうな顔で、好きになった人とうまく行かないと話し出した。
なんか、好きになったのはキャバ嬢で、ずっと店にいても手も握らせてくれないとか、やっとアフターに成功し高い食事をおごったがまだ心を開いてくれないとか。
それでも最近では出勤前に食事と、ずっと店にいつづけた時だけタクシーで送らせてくれるようになったらしい。
そして今日タクシーの中で手を握ろうとしたら、手に触れる前に彼女のものすごい逆鱗に触れ、もう来るなといわれて半泣きになっているというわけだ。
あほである。
私たちはそんなのムリムリと爆笑し、またガブガブと酒を飲んでいてふと思った。
新入社員でそんな散財して大丈夫なの?
聞いたらはせやんはてれながら、ぼくねぇ、34才なのぉと舌ったらずにかたった。
超年上。イキナリ敬語になりかける私達。
そんな私達に、いいんですぅ、ぼく、ねえさんたちよりガキですぅと上目遣い。
酔った私たちもまいっかとさんざん飲み食いしていたら、いつのまにかはせやんが全部払ってくれていた。
そして私たちははせやんが近くの会社の寮に住んでいること知り、その会社が実は結構な大企業だと知りたまげた。
人事というヤツは結構いい加減なんだな。と。
その後何回かおでん屋で顔を合わせた。
ある時またキンキンと呑んでいるとはせやんが現れ、3人で仲良く呑んでいた。そしてキンキンが何かの用事で急遽先に上がった。
その時はせやんは、キャバ嬢をキッパリ諦める宣言を私にして見せた。
つか、まだあきらめてなかったのかよと私はあきれて見せたが、はせやんが相変わらず涙目になったのでさすがに気の毒に思い、よし、今日はおごってやっからとまた呑んで、結局またおごってもらった。
それ以来はせやんは私たちと呑む時はしょっちゅうおごってくれた。さすがに私たちが辞退すると、今はこれが楽しみだからといって、必ず隙を付いて支払を済ませたりしてくれた。
もちろんそればかりでは悪いから、私たちもよく呑みに行く時ははせやんを誘い、うまくおごったりワリカンにしたりして仲良くとんとんになるようにしていた。
はせやんは電話をすると嬉しそうにすぐ飛んで来て、ああ、根っからのパシリ体質なんだなと納得した。
ある日私が呑んで帰ると、家のポストに何かが入り込んでいた。
小さなポストにちょうどキッチリ収まるように入っていたのは、北海道ラーメンの詰め合わせセットだった。
中には付箋がはっつけられていた。
【部長にお土産で美味しいと評判のラーメンを頂きました。是非食べてみてください。 はせやんでしたぁ☆】
へーありがたいなと思いながら、ふと頭の中に違和感がよぎった。
その日は結構呑んでいたので、まいっかと寝てしまったが、翌朝目が覚め机の上に置かれたラーメンを見て私は違和感の正体を知った。
狭いポストの入り口から、どうやってこうもサイズぎっりちのラーメンを入れる事が出来たのか。
もちろんポストには鍵がかかっている。3桁の番号をぐりぐり回してかけたり外したりする鍵だ。 私はお礼もかねて、その辺をはせやんにメールで聞いてみた。
メールを送って5分もしないうちに返事が来た。
【Subject:ごめんなさぁい 昨日トモにぜひ美味しいラーメンを食べてもらおうと思って行ったんだけど、 鍵がかかってて入らなかったんだよ。 困ったなぁと思って、鍵をくちゅくちゅぅ・・・っていじってたら、偶然鍵が開いたんだぁ。 ビックリさせてごめんね☆ 】
くちゅくちゅぅのくだりで背筋に冷たいものが走ったものの、そんなこともあるものかと軽く考えていた。
しかし。ちょっとまて。
私は鍵をかけるとき、結構ぐりぐり回しておくほうだ。そして私が設定した数字は793。
それが偶然開くというのはものすごい確立だと思うし、もし開けようと思うのなら001からスタートして・・・・・
そこから先はなんだか考えてはいけないような気がして、私は偶然だ偶然だと言い聞かせていた。
しかし、こうしてメールを送り返事をもらったことで、彼に私のメールアドレスが渡った。
その翌日からはせやんの、暴走を通り越して狂ったメールが送られてくるようになる。
つづく。
2004-12-07 (火) 愛に生きる、その時君は暴走列車。② [長年日記]
■ 言葉の魔術師。
はせやんどうやってポストの鍵開けたの事件以来、微妙に距離を測りだした私。
しかしそんな私にまったくお構いなく、翌日から1日何通もメールが届きだした。
そして何通ももらううちに、この大量のメールがじつは3パターンに分かれていることに気が付く。
パターンA:自分語り型
きょうっうっのごっはんっは社食でっっすぅ〜☆ さんさいうどん☆320円にするか カツカレー☆450円にするかなやむなり〜☆ 結局はんばーぐらんち☆520円 820かろりーなり☆ おなかいっぱいです。しぃ〜あわせ!!げふぅぅぅ☆
きょうはだっしゅで会社へ 気が付いたら靴がへびがらでしたぁ! げろげろぉ〜っっ!!
コレが34才・THE社会人のメールだ。
パターンB:気味の悪い最悪型
きのうははせやんのみ過ぎちゃいましたぁ〜☆ おかげで今日はおなかゲリピーです☆キャハ☆ 会議中いきなりお腹がグルグルいいだしてぴーんち!! たったいまトイレにてう〜ぱ〜る〜ぱ〜2匹出産! お尻があついです!!あふん☆
もう一度言わせて頂きたい。
これは34才まがりなりにもきちんとした会社に勤める大人の男性の書いた、
嘘偽り、それどころか脚色すら一切ない原文そのままの文章だ。(星が若干ハートの場合もあり)最悪。
パターンC:人格崩壊型
ともニョロへ。 きニョロはとてもたのニョロかったニョロよ。 でもぼくはともニョロのことがとてもニョロでだいニョロです。 じゃあね☆ニョロロ〜ん!!!
ここまで来ると正直爆笑、即保存。
こんなテンションすら読めない狂ったメールが、一日、いや、2,3時間に1通届く。
大体一日のパターンが、自分語り型→最悪型→自分語り型→自分語り型→人格崩壊型
ほぼこの順番で繰り返される。
しらん。貴様が腹を下そうが、靴が蛇柄だろうが、わたしには一切興味のない事だ。
そんな私の拒否を挑発するかのように、【今日のスーツはベルボトム☆】という斬新過ぎるタイトルでメールを送りつけ、意思の弱い私はついつい好奇心に負けてポチッと開いてしまう。
そして襲ってくるとてつもない後悔と敗北感。
それなのにまたメールが来ると誘惑にかられてしまう。
だいたい服装関係のタイトルが多く、どれもコレも無視できない素晴らしさだ。
【今日のベルトはれいんぼー☆でも25センチあまってしまったどうしよう!】
【電車でみんなの視線がぼくに釘付け☆Tバック透けてました☆】
【鏡を見たら、前髪が斜めに!後頭部は盛り上がり気味!】
素でこんなタイトルのメールを送りつけてくる。コレが開かずにおられようか。
こうして私は知らず知らずのうちに、私の理解を超越した天と地の区別すらつかない【はせやんワールド】へと足を取られていった。
つづく。
2004-12-08 (水) 愛に生きる、その時君は暴走列車。③ [長年日記]
■ 出会いは偶然その後は必然
独自の世界観を惜しみなく放出したメールを送りつけてくるはせやん。
見なきゃいいのについつい見てしまう私。
見たいじょうは返事を律儀に送る私。こうして私たちの奇妙なメール交換は続いた。
ともぉ!あんなぁ(注:ハセヤンは関西出身)、今日は会議中に色んな事想像してもうてナァ・・・(略
真面目に仕事しろ。
きのうもせんぱいとのっみすっぎ〜☆う〜ぱ〜る〜ぱ〜はざんねんながら出産できず☆そしたら・・・(略
漢字ふやせ。☆減らせ。
ともにゅにゅにゅ〜ん!!ともにゅんきょうはまっすぐおにゅちへかえにゅのでにゅか☆(略
漢字へっとるやんけ。
こんなかんじに心温まるやり取りが続けられた。
私の返事もパターン化され、A:ふ〜ん。 B:だから? C:仕事しろ のほぼ3パターンを巧みに組み合わせて返信される。
そしてさすがにめんどくさくなってきた私は、はせやんとメールのやり取り以外の接触を避けるようになった。
私の住んでいたマンションの1階にはコンビニが入っていた。
寂しい一人暮らしの習慣で、私はほぼ毎日、家に帰る前にコンビニに立ち寄り、買う予定もないお弁当をフラフラ見たり、立ち読みしたりしていた。
その日も雑誌を手に取り読みふけっていると、視界に何かがチラチラ映った。
ふと視線を上げると、ガラスの向うに満面の笑みで両手を振るはせやんがいた。
彼はすぐさま店に駆け込み、もうお家に帰っちゃうの?と上目遣いにブリブリしながら小首をかしげたので、私はオヤスミ!の一言を残し振り返らず部屋へダッシュした。
油断した。コンビニの前ははせやんの通り道だった。
そんな反省も酒が入るとすっかり忘れ、翌日も酔っ払って帰宅した私はアイスのケースを熱心に見つめていた。
「かってあげようかぁ〜☆」
振り向くと上目遣いのはせやん。
いらん!の一言で家に帰る私。運が悪すぎる。
翌日はキンキンの家で飲んでそのまま泊り込んだ。
そしてさらにその次の日、あの日は2時ぐらいまで呑んでいた。
友人に家の近くまで送ってもらい、よせばいいのにコンビニに入った私。そして、また懲りもせずはせやんに捕まった。
時間は午前3時。パジャマのはせやん。なぜいる?
「えぇ〜!ぐうぜんやで、ぐ・う・ぜ・ん!ぼくもびっくりやぁ〜ん☆」
偶然・午前3時・パジャマ・偶然・午前3時・パジャマ・偶然・午前3時・パジャマ・偶然・午前3時・パジャマ・・・・
「でもなぁ・・・これってちょっと・・・・運命かもな☆」
まだ何か言おうとするはせやんに、呑み過ぎたから眠いと言い残しダッシュで逃げる私。
その後もコンビにではほぼ毎日会い、メールは返事をしなくてもバンバン送られてくる。
神様神様神様。どうすればいいのでしょうか。
ムカツクやつなら罵倒を浴びせる事もできる、少々手荒な手にでる事もできる。
しかし相手は確実に私よりか弱く見える下膨れの童顔ブリッ子。(注:34才男性です)
世に言うストーカーのように、性的嫌がらせをするわけではない。ただ可愛い僕、そんな僕を見てと上目遣いに訴えるだけ。
私は答えを出せずにいた。
ある日はせやんから、会社で叱られたと(そもそも給料もらえているということ自体が不思議だったが)めずらしくしょんぼりメールが来た。
よかったら一緒にご飯を食べてくれないかと書かれている。
無視する気にもなれず、かといって行く気にもなれず、風邪気味だからと返事を送った。
実際風邪気味だった私は昼過ぎには家に帰り、布団にもぐりこんでダラダラしていた。
何時の間に眠ったのか、目が覚めた。時刻はまだ夜8時過ぎ。
なんだか元気になったので、いつも行くインド料理屋【S】にでもキンキンを呼び出そうかと携帯をいじっていると、玄関のほうでがさごそと音がした。
なんだろうと覗き穴から覗いてみると、魚眼レンズで映し出されたようになった、ますます下膨れなはせやんがそこに立っていた。
うわーーーーーー。
もう一度こっそり覗いてみると、なんか・・・拝んでる。なに?!!
その後エレベーターが彼を飲み込む所を確認して、私は扉をそっと開けた。
ドアノブにビニール袋がぶら下げられ、中をのぞいてみるとドラえもんのぬいぐるみが2つ入っていた。
風邪で弱っていたのだろうか。それとも一人暮らしの寂しさだろうか。私はがらにもなくほろりとした。
ちょっと表現はアレだけど、でも彼は決して悪いやつではない。私はもう少し優しくするべきではなかっただろうか。
今からでも遅くないから、電話して御礼を言って、【S】で彼の愚痴でも聞いてやろうかと思った。
ビニールの奥には手紙が入っていた。
ともぉ・・・かぜだいじょうぶぅ・・・ ぼくがしんどいときはとももしんどいんやなぁ・・・運命共同体☆やなぁ。 きょうはぁUFOキャッチャー大漁大漁!ぼくは取るんが楽しいんやから、これはトモにあげるなぁ☆べつにドラえもん好きちゃうし。 コレを抱きしめる時はぼくをおもいだすように☆すちゃ!
・・・・・。
熱はあるんか?こおいうときはほんとうは座薬がいちばんやでぇ☆ 自分でいれれるん? あれ、じょうずに入れへんと、ぎゃくりゅうしてトモもう〜ぱ〜る〜ぱ〜噴出やで☆きゃぁ☆ばっちぃ〜☆ ぼくが入れるん失敗した時なんかなぁ・・・・・(略
私は読むのをやめ、静かに手紙を握りつぶした。
あぶなかった・・・・・もう少しで情に流される所だった・・・・・。
すっかり呑みに行く気の失せた私は、そのまま寝酒を引っ掛けベットにもぐりこんだ。
思えばこの時から、はせやんのラブコールというにはあまりにも稚拙なアピールが始まった・・・。
つづく。
2004-12-15 (水) 愛に生きる、その時君は暴走列車。④ [長年日記]
■ 先駆け☆俺俺サギ!
はせやんのくどくて雑なアピールに、さすがの私もうんざりしはじめた。
のみに誘う事もヘリ、帰宅時は忍者のごとく自分の部屋に滑り込む私。
そんなことお構いなしに、はせやんの愉快メールは途切れることなく送られてきた。
あの日はキョウちゃんたちと、新宿で飲んでいた。
早い時間から呑んでいたので、いい加減ほろ酔いだった私たちは、次の店を探すべく眠らない町歌舞伎町を闊歩していた。
キョウちゃんも一つの芝居が終った所で、その場にいた芝居関係者たちも含め大変リラックスしたムードが漂っていた。
いい酒だった。
の、はずだった。
先日終ったばかりの芝居の話になり、キョウちゃんがそういえばと言い出しはせやんの話になった。
キョウちゃんもまだ東京にきて間もないころで友人も少なく、無名役者にありがちなチケットノルマに悩まされていた。
私は友人たちを大量に引き連れて、キョウちゃん芝居を見に行った。その中に、キョウちゃんを知らないながらも参加してくれたはせやんがいた。
律儀なキョウちゃんは、ぜひお礼が言いたいと言い出し、私に電話するよう言い出した。
チョッピリ躊躇したが、私も酔っ払っていたのでまいっかとかけてみた。
ワンコールではせやんがものっそ明るい声で出た。
「はいは〜い☆トモ?トモ?電話くれるん久しぶりやんかぁ〜☆いまどこいまどこ?呑みに行くん?」
「いや、あのさぁ、この前一緒に行ってくれた芝居、あの時出てた友達のキョウちゃんが、はせやんにお礼いいたいんやって。」
さっさとキョウちゃんにかわり、私はまた他のメンバーとバカ話をしながら呑み始めた。
最初は御礼を言っていたキョウちゃん。しかし、徐々に雲行きが変わりだし、キョウちゃんの表情に困惑の色が浮かんだ。
いや、トモはやめといたほうがとか何とか言い出してる。何何?悪口?
「ねえトモ・・・なんか、はせやんがトモのこと好きとかどうとかいってるよ・・・。」
ウンザリしながら電話をかわった。もしもーし。
「トモがぁ・・・・好きなのッッ!!!」
ものすごい絶叫が電話から飛び出た。耳が痛い。なにしてくれんねん。
「なぁ・・・いまどこ?僕も先輩と飲んでるんやけど、そっちいくから。」
・・・酔っ払ってやがる。
はいはいと適当な事を言って電話を切った。
周りが好奇心の目で見るので、今までの経緯を話すが信じてくれず。嘘や、ネタやろを連発。
何が悲しゅうて一般素人がネタくらなあかんねん。
その後はその話を打ち切り、気を取り直してかなりご機嫌に皆で飲んだ。
そして楽しい余韻のままお開きなった。
帰りの電車を待つ間、ふと携帯を見ると着信が9件。すべてはせやん。
ウンザリしてるとまた携帯がブルブル言い出した。思わずとってしまう私。もしもし。
「トモぉ・・・いまどこぉ・・・」
「新宿。つか、電車くるから切るよ。」
「今から帰ってくるん?」
「そうだよ。」
「よかったぁ・・・お泊りじゃないねんな。男の声もしたから、もしお泊りやったらどうしようかと思ったら寝られんくなって・・」
「あー、電車くるから切るよ。」
「よかったぁ、よかったぁ、そこにおり、迎えにいったるわ。」
「いや、他の友達の家によるからいい。」
「それ男?それ男?!!お泊りなん?トモそいつと色んな事するん?」
思わずきもちわるさとむかつきで電話を切る私。
直後又電話がブルブル。
怒鳴ってやろうかと電話を取ると、はせやんの一言。
「今電話切れちゃったね☆電波悪いね☆」
「切ったんです。」 ブチッ!
電話を切り電源も切った私は、真っ直ぐ帰るのもなんだか怖くてキンキンを叩きおこし、朝方まで呑んだ。
翌日、さすがに二日酔い気味の私は、今日こそは早く帰ろうと家路を急いでいた。
そこに又はせやんから電話が。
かかってきた電話を無視できない私は、仕方なく電話に出た。もしもーし。
「あ、俺。俺俺。わかる?」
携帯は明らかにはせやんの番号を着信してるのに、イキナリ知らないなれなれしい男がでた。
「・・・どちら様でしょうか。」
「えー、わかんないのぉ・・つめたいなぁ・・俺だよ俺!」
私はこの手の電話が大嫌いだ。相手を試すように名前を言わない奴なんかとは元々友達になりたくないので、こんな奴絶対私の知り合いではない。
つか、はせやんの電話だし。
「ねえ、思い出した?トモ。」
なれなれしく名前を呼ばれ、ブチぎれそうになった。
その時電話の向うで、遠くから叫ぶはせやんの必死な声が、とぎれとぎれ聞こえてきた。
「先輩〜ほんまにやめてくださいよ〜!!携帯、返してくださいよぉ・・・」
はせやんもはせやんなら、この先輩も先輩だ。ああ・・・ぶん殴りたい・・・。
しかし私も社会人の端くれ、こんなくだらなく最悪な先輩相手でも、仕事を円滑に進めるには我慢しなくてはならないのが大人社会というもの。
そんな風にチョッピリはせやんに同情しつつ、私はなるべく冷静にはなした。
「ああ、はせがわさんの先輩さんですか。どうもはじめまして。」
「ちぇえ〜わかっちゃったか。今何してるの?」
「仕事中です(嘘)」
「今はせがわ達と呑んでるんだ、君もおいでよ。」
「ごめんなさい、今日は何時に終るかわかんないんですよ。」
そこでやっとはせやんが携帯を奪い返したようだった。
「ごめんねごめんねトモ、先輩がムリヤリ・・・」
「ああいいよ。」
「トモのことはなしたら呼べってうるさくて・・・ごめんねごめんね!」
「もういいから。切るよ。」
「ねえねえトモ、今から合流する?」
「しません。あのね、私そういう電話かけてくる男本当は大嫌いだから、そんな先輩と呑みたくないの。」
「ごめんねごめんねごめんね・・」
「いや、はせやんも辛い所だよね。まあそういうわけだから。」
「じゃあボクだけ抜け出そうか?迎えに行こうか?」
「結構です。」
電話を切った後も正直むかつきは消えなかったが、はせやんもバカな先輩を持って気の毒といえば気の毒だなと思いつつ怒りを納めた。
が。
甘かった。
翌日の夜、もうそろそろ仕事を切り上げ帰ろうかと言う時間に、又私の携帯がはせやんの番号を着信した。
昨日のわびかなと思いつつ電話に出た。甘かった。
「もしもし?俺俺。分かる?」
またかよ。
「もしもし?俺だよ。元気?」
しかも昨日の先輩とは明らかに違う人間ですよ。なにこれ。
「あの・・・どちらにおかけですか?」
「うわ?!おこってる?!ごめんごめん、はせがわにかわるよ。」
・・・・・。
「ごめんなぁ〜ともぉ〜☆
幼馴染のま〜くんでしたぁ☆今飲んでるねん。トモも合流できないかとおもってぇ☆」
「あのさ。私昨日そういう電話大嫌いって言ったよね。」
「あれ?おこってる?ごめんごめんごめん、お・こ・ら・な・い・で☆」
「切るよ。」
「ねえねえ、本当においでよ☆まあくん、歌もうまいねん☆」
ブチッ
思わず電話を切る私。こいつ、全然反省してない・・・というか、分かってない。
その直後またはせやんから電話。
いい加減にしろといいかけたら・・・
「もしもし?俺俺。分かる?」
「・・・・・。」
「って、何回もいってもおもしろくなかった?」
「・・・・・。」
「いや、あいつがトモさん好きだとか色々言うから、電話かけて欲しそうだったから俺・・・」
「・・・はせがわ君とかわってください。(激怒)」
「はせがわ、なんか彼女怒ってるぞ!アハハ」
「トモ?ごめんごめん、まあくんが強引に・・・」
「すぐ来い。」
「え?」
「よく皆で集まる、駅前のあの居酒屋へ、今すぐ来い。」
「あの半地下の?!いくいくいく!!ヤター!!」
「いいからさっさとこい。30分以内。それ以上は待たん。」
電話を切っても怒りがさめない。もう限界だ。ココはガツンと本人に言うに限る。
なめられてる、確実になめられてる。
帰り支度をはじめた私にまたはせやんから電話が。
「ボク一人で行ってもいいのん?まあくん連れてったほうがいい?」
「いいから一人で来い。」
「デートみたいだね☆アハハ〜」
「うるさい。さっさと来いよ。」
「もう店の前☆嬉しくてタクシー飛ばしちゃった☆」
早!
思わずダッシュで会社を出る私。
もうダメだ。避けて通っても仕方ない。ここはガツンと直接対決だ。
言いたいことは山ほどあるが、怒る気持ちで言葉がうまくでそうにない。冷静に冷静に。
そう自分に言い聞かせて、居酒屋の扉を開けた。
おなじみ散切り頭の下膨れ顔が輝くように笑って、ちぎれそうなほど手を振っている。
悪い奴ではない。
それは分かる。
だからって、許されるものでもない。
私は意を決してはせやんの方に向かった。
わずか数分で、この輝くような笑顔が豹変するとは思いもしないで・・・。
つづく。
2004-12-29 (水) よいお年ヲ! [長年日記]
■ こんな日は奥田民夫がぐるぐるまわる。
最近分かった事なのですが、意外に男性の方ははせやんに同情的です。
「俺も同じような事やってるし。」
「そういう風にみられてたのかな・・・。」
「気持ちわからんでもないんだよ・・。」
ちょっとまって、ちょっとまって、ちがうのよ、はせやんは
純情も 一歩それれば ストーカー
そんなレベルの人ではないと思うんですよ。
ああ・・・そんな自分の筆力のなさを悔やみつつ、そして何より今年はせやん話を引きずったまま年をまたぐのかと、それだけは避けたかったのですが・・・・はせやんのまま・・・またぎます・・・。
今年一年間も、こんな所見に来てくださった皆様にとても感謝しております。
そしてこんな私と、リアルに飲んでくださった心広い皆様に感謝しております。
来年も、どうぞ宜しくお願いいたします。
やっぱりこんなサイトでも、私ですので。
ここに来てくださる方とのつながりを、これからも大事にしていきたいと思います。
それでは皆様よいおとしを!
ほなサイナラ!
はせやんのまま年が過ぎるのか・・・・・
# pino [やべえ!「さあ、冒険のはじまりです」って声がどっからか聞こえた!! インディジョーンズの音楽とドラクエのファンファー..]
# (・ε・) [なんかね、ドラクエとかそんな爽やかなものじゃなくてね、なんかマヌケなファンファーレが鳴り響きそうですよ。ホンワカパッ..]
# (・e・) [あれだ。最後にみんながずっこけて、ふんどしで誰かが平泳ぎするやつ。(あっちこっち丁稚です。古。)]