チナウ

■ 工夫。

私の席のすぐ隣に、出金伝票箱がある。

仕事でちょっとしたものを買った人たちが、領収書やレシートをはっつけて経理に清算してもらう申請書を入れておく箱だ。

これを私が1日に1度、会社のメール便に乗せて経理様にお願いする。

どこの会社でもそうだと思うけど、金を握っている部署は強い。

今日も【宜しくお願い致します。】と丁寧にお願い。

しかし先日経理より、ウチの部署は金遣い荒いんちゃうんかと言う趣旨のことを、まことに社会的かつスマートに言われた。

困った。だって私の名前で送ってはいるが、私自身が申請しているわけではなく。

かといって、いつの間にか箱に放り込まれているもんだから、イマイチ注意を促すタイミングもつかめないワタチ。

つらい。

出金伝票箱ですらお中元のネスカフェの上箱を再利用して作った手作りエコ箱なのに。

なのに。なのに金遣い荒い的なことを言われるなんて。

考えた末、私の机の上にころがっていたやつをボックスに設置してみた。

朝、会社に行くと既に何枚かが入っているはずなのに、なんとその日は一枚も無かった。

その上、そんな毎日が続き、またもって来る人は箱に入れずに、私に直接持ってくるようになった。

なので私も、「あれ、テプラこの前も買いましたよね。」とかチクチク言える様になった。

経費削減成功！やた！

地球だけじゃなく、私も救ってくれた。

松本先生ありがとう！（マッキーより私は先生をおうえんするよ！！）

■ それぞれのやりかた。いっしょの幸せ。

朝目が覚めたらオムライスが食べたくなっていた。

オムライスが食べたいとぽつんとつぶやいたら、隣にいた彼が「いいね。俺も食べたい。」と言った。

大変珍しい。

私達はあまりオムライスが好きじゃない。

好きじゃないというというか、食べてるうちになんだかもういいやってなってしまう。そんな食べ物オムライス。

なのにこの日はオムライスで意見が一致。毎日一緒にいて、同じようなものを食べていると、食べたいもののサイクルがにてくるのかな。そんなことを言い合いながらごそごそと起きだした。

そういえば前にオムライスを食べたのっていつだっけ。

付き合いだしたばかりの頃、落ち込んでフテ寝をしていた私に彼が作ってくれたオムライス。

あのときのオムライスはおいしかった。じんわりとしておいしかった。

だが、彼がオムライスを食べている姿を思い出せない。ひょっとして食べたことないんじゃ・・・それぐらい珍しいメニューだ。

炊飯器にはちょうど2人分のご飯。玉葱は常備。にんじんとピーマンにも恵まれた。冷蔵庫には鶏肉の代わりにウィンナー。思いつきの割には見事なオムライス日和。

朝っぱらから取り出したビールを、お互いプシッと開けて料理開始。

包丁さばきは私のほうが早いので、私は材料を切る係り。

味覚と腕力は彼担当で、調理とフライパンを振る係り。

一人でも作れるけれど、こうやって得意分野を担当しあえば、早くできるしおいしく出来る。休日の朝っぱらからビールを飲んで、だらしないけど楽しくできる。

フライパンを振りながら「玉葱！」「塩！」「胡椒！」という彼に、絶妙のタイミングで放り込む。必要な素材を先回りして準備して、空いている手で洗物。シェフとしての腕はともかく、私は有能な助手だと思う。

そうして一緒に1杯目のビールを飲み終わる頃、ウィンナーケチャップライスが出来上がった。

ここではじめて意見が別れた。

私はこのウィンナーケチャップライスを、薄焼き卵でくるりとくるむ昔ながらのオムライスを希望。

彼はこのウィンナーケチャップライスの上に、半熟オムレツを乗っけるトロトロオムライスを希望。

しかも彼は、フライパンにバターを敷き、牛乳のほかに生クリームまで混ぜた卵を焼くと宣言。

そんな恐ろしいカロリーはいやだと私拒否。

結局オムライスは２つ同時に作れないから。それぞれ作ればいいじゃんということに落ち着いた。

うまくひっくり返せず四苦八苦する私の隣で、彼は幸せそうに高カロリーオムレツの種をじゃかじゃかとかき混ぜる。

ちょっといびつな私のオムライスの横で、彼のオムレツが綺麗にくるんと回転した。

くやしい。

私が困ってるとき助けてくんなかった、うまくフライパン振れないのに私と、理不尽に彼に八つ当たり。

実際彼のオムライスはとてもおいしそうで。ちょっといびつな自分のオムライスが悔しくなった。

彼はちょっと困った顔をしたあと、じゃあ交換しようと提案した。

むくれながら席に着き、オムライスを見つめると。いびつだけど自分のオムライスに愛情がわいてきて。

結局それぞれ自分の作ったオムライスにスプーンを入れた。

冷蔵庫から取り出したばかりの冷たいケチャップをかけようとした私を押さえ、彼はソースをささっと作る。

あったかくて、すっぱくて、甘くてうまい。

彼のオムライスもすくって食べた。こってりしててやっぱりうまい。さすがカロリー大臣、いい仕事してまんな。

そんなことをいいながらスプーンを何度もクロスさせるうちに、2つのお皿はきれいになった。

大変満足して大の字に寝転がる。毎週あきもせず繰り返されるワンパターンな休日。

お互い好みが似ているけれど、やっぱり2人だからちょっとづつ違って。

その違いにまた興味がわいて、そんで試しあったりする。

でも結局ちょっとづつ違っても目指す大きな先は一緒で。それは不思議といつも、なにか示し合わせたわけじゃないのに同時に同じ方向を見つめている。

一緒にいて。同じものを食べて。おいしいものを勧めあって。面白い本を薦めあって。ホラービデオの新作を借り。心霊写真の映像を見ては先を競って霊を探す。

同じ皿のお刺身をつつきながら、彼が日本酒を飲み、私が焼酎を飲む。ちょっとづつ違うけど、感じる幸せや満足感は同じ。結局酔っ払って、ビデオは最後まで覚えていない。

あきもせず繰り返してきたし、これからもきっと繰り返される。うっすら酔いながら色んな大切なことくだらないことうれしいこと悲しいことたくさん話して、それでも毎日言葉は溢れてくる。

毎日同じの食べて一緒にいるから、そのうち顔も似てくるかもね。そういうと彼がしかめ面をする。大変失礼だと思う。

ちょっとづつ違うけど。求める先は漠然と一緒で結果オーライ。

そんな毎日がいい。これからもそんな毎日がいい。

そんなこれからがいい。

そんなわけで。

入籍しました。かしこ。