チナウ
2004-02-09 (月) まさる。25歳のタビダチ。
■ セックスと演技と追いかけっこ。
私が昔バイトしていた【S】ですが。
又その頃のお話。
まさるはどちらかと言うと、いや、誰が見ても地味な男の子だった。
【S】でもバリバリ浮いていた。
【S】に出入りしていたチビッコのリーダー格ともいえるユウの幼馴染で、たまたまユウが【S】に来る前にまさるにばったり会い、つれてきたのがきっかけだった。
まさるは一人で出入りできる飲食店が初めてで嬉しかったのか、毎日のようにやってきた。
ユウ達がいても自分からは声をかける事が出来ず、いつもカウンタの端っこでじっと声をかけられるのを待っていた。
私もヒマなときは話し相手になったりして。
まさる、25歳。童貞。
ある日ユウが一人でやってきた。まさるは相変わらず隅っこでじっとしていた。
ユウはまさるに気が付くと、一緒に飲もうぜとかいいながらカウンターに座った。
「ちょー聞いてよトモー。俺もう女ってわかんねーべ。」
そんな感じでユウはいつものように他愛も無い恋愛話をしだした。私もホーホーとか言いながら適当に聞いていた。
そこから話の矛先はまさるへ。
どんなタイプが好きかとか、そんな話になった。
そこにキョウちゃんがやってきた。
私とキョウちゃんは一緒に住んでいた時期があるので、ユウとも顔見知りだ。
久しぶりーとか言いながらわいわい呑んだ。
私とユウは相変わらずまさるに、好きなタイプはとか聞きながら照れるまさるをからかっていた。
キョウちゃんはバリバリの偽善者で八方美人なのでまさるをかばったりしていた。
小1時間も呑んでいただろうか。キョウちゃんは電車の関係があったので帰った。
そこから私たちはまた2時間ほど飲んだ。酔いが回ってきた頃まさるが言った。
「・・・っていうか・・・僕キョウさん好きみたいです・・・。」
・・・すきてアンタ今日あったばかりで。
この現象を私とユウとの間では【童貞の刷り込み】と命名し今も語り継いでいる。
童貞にかぎらず恋愛に不慣れな人に結構起こるこの現象。
最初に動くものを親と思い込む鳥の刷り込みのように、まともにしゃべったりちょっと優しくしてもらった異性をいきなり好きになってしまうと言うこの大人の階段1段目。つか登ってさえいない。
私とユウは、それは思い込みだと教えてももうまさるの恋心はノンストップ。ノーブレーキ。
こうなると恋に恋するとはよく言ったもので、恋する自分にうっとりしてしまう。
その日からまさるのうっとりな日々がはじまった。
カウンターの端っこで物憂げに頬杖をつき、これ見よがしにため息をつく。
はっきりいって鬱陶しい。
「トモ姉。あの・・・キョウさん来ないのかな?」
「当分こないよ。遠いもん。つかそれ思い込みだから。」
「いや、一目ぼれじゃないかなーと・・・ボク・・・おもうんですよ・・・。」
「うるさい。営業妨害。」
ある日キョウちゃんがやってきた。
ユウもいた。思いつめた顔でまさるもいる。でもやっぱり自分からは声がかけられない。
まさるを呼んでやって皆で飲もうとセッティングしてあげた。
まさるいざとなるといきなり石になる。
キョウちゃんがトイレに行ったとたん、次いつ会えるか分からないとかいって騒ぎ出す。
「まさるそれならもうコクればいいじゃん。」
ユウもうめんどくさくなってそんな事を言い出す。
結局まさるキョウちゃんが2回目のトイレのときに追っかけていって(トイレは外にあった)コクった。
キョウちゃん爆笑。
まさる秒殺。
その後まさるは涙の乾くまもなく、つぎつぎ一目ぼれ連鎖反応を起こす。なに連鎖だ。
今まで出会いが無かった彼、【S】にきてカウンターに座ると誰かしら常連の人が話し掛けてくれる。
それをきっかけに話した女性のほとんどに一目ぼれし始めた。
最終的にはマリコにまで惚れた。ヤワラちゃんに似たマリコ。
しかしマリコにまで、まさるはお子ちゃまだからと最高のキメセリフでフラれた。あまりにも素敵過ぎるお子ちゃまというフレーズに皆騒然とした。
お前までフルなキモいとみんなマリコに突っ込んだが、まさるだけマジだった。
ボクかっこ悪いからダメなんでしょうかと落ち込むまさる。
ちがう。がっつきすぎだからだよ。1,2回でいきなり好きいってもな。
いや、あると思うよそんなことも。でもあんた誰にでも言い過ぎ。
みかねたユウが、いっそのこと風俗でも行って童貞を捨てると言う確度から切り込んだらどうかと言い出した。私たちもいきなり風俗とは言わんでもキャバクラぐらいからレッスンしてみたらどうかと言ってみた。
女に優しく話し掛けられるだけで惚れてたら身がもたんでしょ。
まさるはいった。
「・・・っていうかボク、セックスとかあんまり興味ないんですよ。」
・・・でた。
「っていうか、セックスセックスっていうけれど、それだけが目的じゃないじゃないですか。それより大切な事があると思うんですよ。」
・・・でた。童貞の強がり。
まさる、それ以上言っちゃダメだ。私たち確かに追い込みすぎた。でもそれは言っちゃダメ。
「どうしてですか。ボク体目当てじゃないんですよ。」
たまに追い詰められたり、強がっている人でこんな事をいっぱいいっぱいの目して言う人がいますが。
体目当てとか、そおいう問題じゃないんだよまさる。
いわんとする事は分かるよ。でも皆それを分かった上で話てるんだよ。
なんかもう性的に乱れてたり色んな事があった人が言うのならともかく、やったことない人間は思ってても言っちゃいけないんだよ。
がっつきたくない、体目当てじゃない。分かるよその気持ち。
でももう今の時点でがっついてるんだよ。告白連鎖反応はがっついてるんだよ。
それならいっそ素直に行こうよ。こわくないよ。振られたりセックスをしたいと思う気持ちは恥ずかしくないんだよ!
そんな人は一度知ったら掌返したようにセックスサイコー!!とかなるんだよどうせ。
だからそれは強がりなんだよ。
「ボクは好きな人なら何もせずに抱きしめて眠るだけで幸せなんです。」
「好きな女抱いて何もせず眠れるわけねーべ。おまえバカじゃん。」
ユウが飾り気も知性も無い言葉を投げつけます。直球な。
「眠れるよ!」
「チンコ立つべ?いてーべ?相手に気付かれないように腰引いたまま寝るのかよ。寝れねーべ!!」
これこれユウくん。一応お食事中の人もいるんですよ。
「ダイジョーブだよ。」
「ばかかお前。立たなかったらもっと大丈夫じゃないべ。」
童貞の見栄とか、誇りとか。そんな繊細だけど何の役にも立たないものは、脳味噌の少ないヤリチンに粉砕されるのでした。人生ってキビチィ。
繊細なチェリーちゃんの心を全く読まず、お前それはただの意気地なしだそんな言い訳男なら口にするなと言い切る幼馴染の前にまさる撃沈。
居たたまれなくなってグラスを磨きだす私。
「トモもそう思うべ。セックスしなくてもいいとか言う男どうよ。」
「男じゃないな。」
あ。いっちゃった。
まさるガクンとカウンターに突っ伏しました。わりぃ。
でもね、まさる。外に出るって事はこういうことなんだよ。
自分ひとりだったら傷つかないけど、外で飲むとガツガツ言われるよ。でもそれでいいと思うんだよ。
がんばれまさる。恋愛の話だけじゃなく、色んな人に耳の痛いこと言われながら世間に馴染んでくれ。
いつもカウンターの隅っこで、誰かが声かけてくれるまで待ってるだけじゃダメなんだよ。
知ってる人が入ってきたら、自分から声かけなきゃいけないんだよ。
まずその一声から始まるんだよ。セックスへの道のりは。
かなり適当なことを私とユウで話して聞かせました。つか、酔ってたし。
まさるはそれでもうんうん聞いていました。
いいのかよ、あんな適当な話で。
それから半年後。
最近まさるコネーナとか言いながらまたユウと飲んでいると、まさるが颯爽と現れました。
「ユウ、トモ姉久しぶり!あ、ボクいつものウォッカトニック!」
そもそもウォッカトニックて、私がジントニック作ろうとして間違って作ったのをまさるに与えた事から飲み始めたものでしたが。
ビールしかいえなかったまさるにとって、コレがボクのいつものになっていたのです。
重ね重ねわりぃ。まさる。
しかしその日のまさるは颯爽としていました。どした?
「じつは・・・彼女ができたんです!」
「まじで?!!」
驚く私とユウ。かなり失礼な驚きぶりですがまさる頬を染めてテレ笑い。どんな出会いよ。
「えっと。【ぱ●】で。」
「【●ど】って、なんかあのフリーペーパーのタウン誌?」
「ハイ!あれで、劇団作ろうとかいう呼びかけに思い切って連絡してみたんです!」
「・・・劇団?!」
「ボク・・・俳優になりたくて!!」
「!!!!!!!」
私とユウ又ビックリですよ。もうこれからはちょっとやそっとじゃびびりませんよ。
「でね、そこで知り合った子なんです。」
「・・・そう。まあとりあえずおめでとう。その子も芝居やってるの?」
「いや、皆未経験者なんですよ。」
「じゃあ練習も大変だね。」
「いえ、まだ人数も女3人と男2人なんで、集まるまでは遊んでるんです。」
「・・・なにして?」
「えっと、毎週木曜日の夜7時から10時までが稽古日なんですが、今は日比谷公園で鬼ごっことかしてます!」
「・・・皆いくつぐらいなの?」
「皆社会人です!だから夜7時集合なんです。仕事終ってから!」
「・・・なるほどね・・・。」
「そんなことよりまさる、彼女とはしたのかよ?!!童貞卒業したのかヨ?!!」
痺れを切らしたユウ先生からの一言が。これこれユウくん。一応お食事中の人もいるんですよ。
「・・・・ハイ・・・。」
「!!!!!!!」
「・・・彼女も・・・初めてで・・・・」
「!!!!!!!」
「・・・3つ年上なんですけど・・・」
「えーっとつまり、25歳童貞と28歳処女ってことでいいでしょうかねユウ先生。」(小声)
「間違いないと思います。先生、奴等最強です。」(小声)
もじもじするまさる。でもすごく幸せそうです。サルだな。今絶対こいつらサル。
「どうよまさる。セックスって気持ちいいべ!」
「・・・・ユウ・・・この前はごめんね。」
がっちりと握手しあう幼馴染たち。どんな仲直りだよ。
その後まさるはセックスってホントいいよねとかしみじみと500回ぐらい言っていました。
ユウもそれはそれは優しい目でうんうん頷いていました。
私はアホらしくなってきてまたグラスを磨いていました。
人の人生の分岐点にチョッピリ関わっちゃった夜。
【S】の灯りはいつまでも灯り、冷たい水で冷やしたりパチパチ叩いたりして刺激を与えて鍛えたほうがいいのかなとかいうまさるのアホな質問で夜はふけていくのでした。
どんな質問だよ。
# 6-30 [彼女のできた最強マサル君はもてるようになったんでしょうね。]
# (・ε・) [イヤ、相変わらずショボイ。]
# (・e・) [どうでもいいけど6-30っちは女性の年齢大好きだね。アンテナやたらと女の子の年齢書いてるね。あんまスマートじゃないね..]
# (・ε・) [モテないべ。キヒヒ。]
# 6-30 [30才以上の女性は年齢を書かないようにしてるんやけど。]
# (・ε・) [その一言が確実にダメダメだな。]
# (・e・) [お互いオーバー30の大人なんだから、考えて行こうぜ。女の子相手に年齢にこだわりすぎたコメントだよね。モテねえべ。]