チナウ
2003-07-15 (火) 見えるもの。 [長年日記]
■ 見えないもの。
覗き込む先に見える自分はどんな顔をしているのか。
それは夢の中のことのようにあやふやで、はっきりしたものなんかつかめたためしは一度も無かった。
でも、それでもその先にぼんやり見える私を、時間とともに変化する私を、
本当は知っていたような気がする。
今だから思うのだが。
たまに言葉の中に鏡が使われる。
○○は○○を映す鏡だとか。そんな感じで。
おもに映されると表現されるものは、心とか性格とか、なんかそんな見えないものだ。
昔お世話になった芸術家の先生に、アルカイックスマイルを浮かべた仏像のようなものの絵を見せてもらった。
ねえ君。笑っているように見えますか。怒っているように見えますか。
うわべだけのあまり周りに関心の無い笑みのように見えますと答えた。
それが今のあなたですよと言われた。
油断した。
こんな所にも鏡があるらしい。
こんなときに私が思い浮かべる鏡は、つるつるした一般的な鏡じゃなくて。
イメージとしては怖いくらい明るい月夜の、恐ろしいくらい静かな水面がそれなのだ。
覗き込むと陰になって表情は読みにくいが確かに映る。
そして手をのばして触れようとして、水面が波立ち全てをかき消す。
ゆがんだ表情は笑っているようにも泣いているようにも。
もう一度見ようとしても少し時間がかかってしまう。
ただそのあいだをまてずに立ち去るか、
事を荒立てず静かに待つしかないのだ。
次に映るときは、さっきのほうがもう少し綺麗に写っていたのではないかという不安に襲われるけれど。
久しぶりにキョウちゃんと飲む。恋愛の話になる。
彼女はここ数年彼氏がいない。
私たちの年って重たがられるからという。
あたりまえだ。
人様に威張れない人生でも、自分なりに32年積み重ねてきたんだ。軽く見られてたまるか。
だからなかなか彼氏が出来ないというがそうなんだろうか。
よく私たちぐらいの女性が口にするのは、この年になると結婚を迫られそうで重たいと思われるんじゃないかという不安。
重いのとめんどくさいのは微妙に違うような気がする。
私は今。真面目にゆっくり恋愛したい。
相手を大切に思って、駆け引きとかそんな不確かなもの抜きで、
好きだから相手を思いやって。好きと言う気持ちを素直に出して。
好きだから大事にしていきたい。
それはずっと一緒にいたいから。
そしてそれを受け止めてくれる人と付き合う事が出来ている。
昔。昔昔。
彼氏がいた。好きだった。それは本当の気持ちだ。
彼はだらしない私をいつも心配してくれて。でも彼だってまだ若くて。
結局それはとても不器用な束縛というカタチで2人の関係を閉塞的なものにして。
私たちは2人ともまだ、2人の違った人間が関係していくという事に不慣れだった。
結局私は別に好きな人を作って別れた。
その人のことも好きだった。それも本当の気持ちだった。
でも今思えば逃げたかったのかもしれない。
その後私はその彼ともアッサリ別れて別の人と付き合った。
その頃私が付き合う人は、彼女のいる人が多かった。
だから私は自分が愛人体質なのかと思ったりもした。
彼女を大切に思いながらも、息苦しくなって別れたくて私と恋愛する人。
今なら分かる。
そんな男たちを見て嘆いていた稚拙な私。
お粗末な人生経験が全てだと思って分かった顔して嘆いていたけれど。
その頃の彼たちと私は恐ろしいほど似たもの同士だった。
のめりこむとめんどくさがられそうで。
相手を焦らして、もっと好きになってもらいたくて。優位に立ちたくて。
そんなことを考えながら様子をうかがって、相手の出方を見て、
自分の感情を少しづつその時々に応じて小出しにした。
それが駆け引きというものだと思っていた。
お笑いだ。
もう別れたり、そんなの辛いから好きになりたくないと思ったりもしたことも事実だ。
でも運がいい事に、私は誰かを好きになりやすかった。
そして今、すごく面倒な事をおこして私は彼のそばにいる。
でも大好きだから。大切にしたいから。
もし後で泣く事になったとしても、私は悔いが無いと思えるくらい相手に好きだと伝えたい。
彼もきちんと私の目を見て、怒ったり喜んだりしてくれる。
彼の目にはいつも、真っ直ぐ彼を見る私が映っている。
重たいでしょ。めんどくさいでしょ。そんなことしてまで、あなたのもとに来たのよ。
きっと私は無意識のうちに、そんな態度が出ていると思う。
彼も一度だけ逃げたくなった事があったと告白した。つい最近教えてくれた。
それは一人暮らしの物件を探しているとき。先を思って不安になったと。
私はそれを聞いて不思議なくらいほっとした。
逃げたくなって当然だ。ちゃんと、ちゃんと考えていてくれたんだ。
そんなときでもこの人は、私より熱心に家探しをしてくれた。
前向きに考えよう。
2人でいるために。
2人が毎日笑っていられるように。
私ね、別に結婚したいわけじゃないから。気楽に付き合って。
そんな変な話あるか。
結婚したいと思っていてもいなくても。彼から与えてほしい愛情の量にかわりはないはず。
結婚とか、年とか、それを重いと思う男は結婚してもしなくても、ささいな事でも重く感じる。
もしくは相手がまだ熟していないのか、あなたをまだちゃんとみつめていないのか。
だからそんな事いわないで。
少しづつでも恋愛をして、誰かを好きになって幸せになった事があるのなら、
気楽になんていわないで。
重くていいじゃない。
2人で楽しくなる方法を模索していけばいいとおもう。
気軽につきあったんじゃ見えない。
そんな幸せを探すために日々ケンカしたり迷ったりすればいいと思う。
それも重いという男性は。
そんな人はきっと一緒に歩く人じゃないから。
きっとどこかにいると思う。
そしてきっとそう思える男性が現れると思う。
重いという相手の目に、重さに怯える自分が映っていると思う。
誰かに触れたくて、そうして抱き合って。
その場限りの関係はいつも私をむなしくさせてきた。
むなしいながらも、人の体温を求める事が大切なときもあった。
でも今は。
大切な人の心も体も時間も全て全て。
私だけのものにするの。
2人だけのものにするの。
キョウちゃんはいつも私に言う。
どうして彼とうまくいくのかと。
だから私は答える。
私が相手をすごく愛しているからだと。
文字にしてしまうととても陳腐なやり取りだけど、私とキョウちゃんはいつだって先を模索している。
絶望するほど人生に期待していない。
でも、好きな人に会えたとき、ああ私の人生も捨てたモンじゃないなと思えてくる。
誰かに好意を持ってもらえると、
人から見ればくだらない、それでも私には愛しい人生に、
小さな小さな花が咲いたような気がする。
自分ひとりでは咲かす事の出来ない。家族や友人や恋人や見知らぬ人や。
そんな人たちに咲かせてもらった名も無い花。
私も誰かの中に花を咲かせられたらいいのに。
キョウちゃんが好きだから。私のこともずっと好きでいて欲しい。
キョウちゃんダイスキ!といつも宣言してるんだけど、いつもてれた顔して笑ってくれる。
色気無いけどなと付け加えると、きちんと拳が飛んでくる。
うん。大丈夫じゃん。元気元気。
キョウちゃん、分かんなくなったらまわりを見回して。私たちの顔を見て。
そばにいてくれる人、その人の性格、表情、
ソコに自分が見えてくるような気がする。
つかまえようとしてばしゃばしゃしても、水面が波立って全てがゆがむ。
焦っても焦っても余計波は立つばかりで。
だから待つの。月を見たりしながら。
そんで覗き込んで、やっぱりはっきり見えないなって苦笑い。
本当は胸の裏っかわあたりに、
うっすら浮かんでなんとなく感じることできてるんだけど。
道に咲く花を見つけて、それだけじゃ綺麗だと感じれない勝手な自分。
心の見えない花に、いつも癒され泣かされる。
私が好きだと思った人は、私を好きだといってくれる。
幸せですと伝えたら、私のその顔を見て幸せそうな顔をしてくれる。
水面に映った自分にふれることはできないけれど、そんなあなたにふれることはできる。
さんざんグチってすっとした。ありがとう。
そう言って颯爽と街に消えたあなたを見て、私の中にも風が吹く。
いろんな人からもらった言葉、すべて摘み取って一つに束ねたら。
きっとキレイな花になる。
悲しい言葉も、うれしい言葉も。
花束に顔をうずめて、自分の顔が見えなくても、
そのやさしいにおいに私はうっとりする。
大丈夫。だから大丈夫。
ありがとう。
おっしゃ。
明日もがんばって生きるべ。
トモ吉が悪魔だから世の中が地獄なの?トモ吉が天使になると世の中は天国になるの?