チナウ
2005-02-21 (月) 恋する女は何をしても許されるのか。 [長年日記]
■ 怖いって。
ココに何度も書いた事があるが、数年前私には行きつけにしていた【S】というインド料理屋があった。
そこによくゴハンを食べに行くうちに、その店を通じて知り合いが増え、オーナーとも仲良くなり、お金がない時はバイトをさせてもらったりした。
とにかくそこに行けば誰かいるという、大変居心地のいい店だった。
そしてそんな店だからこそ、常連同士の恋愛沙汰なんかがあって、それを観察するのがなかなか楽しかった。
私はオーナーに頼まれ、その店で月に一回パーティーを企画していた。
その月は10月、パーティーの日も月末に設定し、ハロウィン仮装パーティーにする事にした。
私とキョウちゃんが司会進行兼バーテン兼フロアー係。もちろんそれでは人手が全然足りないので、友人のヒロスエに助っ人を頼み、常連のジュンコにも協力を要請した。
DJも欲しいという事になり、知り合いのDJヒロさんに頼んだらたくさんの機材とともに当日やってきてくれた。
店は40人も入ればイッパイイッパイというところに、入れ替わり立ち代り200人以上が集まった。
当日のルールは仮装。
私はオーナーの奥さんにサリーを着せてもらい、キョウちゃんは町娘にカツラ、ヒロスエはピンクのナース服、ジュンコは女子高生になった。
お客さんの中には仮装をしてこない人も居たが、そんな場合は受付のヒロスエにフェイスペイントを小さく入れてもらうというルールにした。
嫌がるお客さんにはやめておこうと思ったのだが、予想以上に皆ノリノリで、パーティは終電を越えても収まらなかった。
そんなわけで私とキョウちゃんは色んな人と挨拶をしたり、適当なお酒をつくったり、お約束ビンゴやゲームをしたりして走り回っていた。
そこにカズ君がやって来た。
カズ君は、2週間ほど前に友人たちと店にやって来た新規のお客さんだった。
私たちがワイワイパーティーの打合せをしていると、何があるんですかと人懐っこく聞いてきたのが彼だった。
私はパーティーがあることを伝え、もしよかったら是非おいでと言っておいた。
やって来た彼は、律儀にアフロのズラを被り、鼻メガネだった。
少しだけ立ち話をした。
その日以来、カズ君はちょくちょく店に来るようになり、1人でもふらりと現れては私たちと楽しくお酒を飲んだりした。
ある日。
私はいつものように【S】へ行き、一人できていた常連のリッキーを飲んでいた。
2人でくだらない話をしながらだらだらしていると、女性が1人やって来た。
私たちの隣の席に腰を下ろす。
店にはその後も顔見知りが何人かやって来た。
入ってくるなり私たちを見て、「リッキー、トモー、まいどー」と声をかけてくる。
混ざったり、挨拶だけだったりまちまちで、私もカレーを食べ終わり、そろそろ帰るかなと思ったその時だった。
「トモさんですか?」
隣に座っていた女性がイキナリ声をかけてきた。
ビックリした。
その当時の私は酔っ払うとムダにフレンドリーになるという癖があり、気が付けば知らない人たちと一緒に飲んでいたなんていうことはしょっちゅうだった。
その界隈で飲んでいるといきなり女性にこの前はどうもとか声をかけられ、あせる事がたびたびあった。
又そのパターンかと思い、私は曖昧に笑いながらも記憶をものすごい勢いで手繰った。
「私の友達がよくこの店に来るらしくて。トモさんとか常連さんがすごく楽しい人たちだって言ってたから。」
と、言う事は初対面か。私はほっと胸をなでおろし、改めて自己紹介をし、その友人が誰かを問うた。
が。
彼女は曖昧に言葉を濁すばかりで教えてくれない。
「彼は私がこの店に来たって知ったら、嫌な気持ちになるかもしれないから。」
「彼は私に会いたくないかもしれないから。」
ものすごい思わせぶりだ。彼彼彼。彼って誰やねん。
私もめんどくさくなって、じゃあいいやとあまり詮索しなかった。
すると今度は、
「そういえば彼ね、インド料理とか好きだったんですよ。」
「彼ね、一人で家で食事するの嫌いな人だから。ついここにきちゃうんですね。」
「彼から話を聞いて、一度来てみたかったんですよ。」
だから彼ってだれやねん。
大体こういうパターンの時は、話題を深追いしないに限る。あまり関わらないに限る。
そう判断した私は、じゃあそろそろ・・・と腰を浮かし始めたとたん、彼女はぺろりと白状した。
「彼って、カズ君のことなんですよ。」
・・・・聞いちゃった。これでまた、あっそ、ホナサイナラっていかなくなってきた。
彼女も隣で、楽しいな、今日はもう飲んじゃうとか言い出してワインをおかわりする。
楽しいも何も・・・・あんた・・・ねえ?
オーナーが彼女にワインを持ってくるついでに、頼んでもいないのに私にも持ってきてくれた。ますます帰れない。
その後一度封印をといた彼女の唇から、ものすごく滑らかにカズ君との思い出が滑り出してきた。聞いてもいないのに。たくさんたくさん溢れだす。
もうこれはよっぽどのアホか酔っ払いでもない限り、ああ、彼女とカズ君はお付き合いなさってたんですねと。そお言うことなのですねと。
「もうね、正直に言ってしまうと、私たち別れたばっかりなんですよ。」
まあ、そうなんでしょうね。流からすると。
それでも私は、へーとかほーとか言っておいた。
今度は質問攻めが始まった。
「カズ君て、いい子だと思いませんか?」
「人懐っこいですよね。」
「トモさんって彼氏いるんですか?」
・・・なんだこれは。
つまり、その、なんだ。この方は何か疑っているのかと。
言っておくが、私とカズ君はまだ知り合ってまもなく、せいぜいその他大勢の人たちを交えて数回飲んだ程度だ。もちろん彼女がいて別れたなんて知るはずもなかった。
「実は別れた時って、大切な話してるのに彼、ハロウィンパーティーに行くとか言い出して。
それでケンカしてそのままに・・・。
そんな大事な時なのに、それでもパーティー行くって言うからよっぽどかと思って。」
・・・あの日か。アフロかぶってる場合とちゃうやん。
まあもううんざりしてたんだろうな。
「もうね、正直に言いますね。
私ね、彼あんな人懐っこい性格だから、トモさん彼のこと食べちゃったかなと思って。」
おいおいおいおいおいおいおいおいおい。
ちょっと待って。初対面の人間に対してなんちゅう無礼な女なんだ。
なにか、私はそんな下半身食いしん坊か。
彼が食ったんじゃなくて。あくまでも私が動いたッちゅうことなんか。
アホか。
あまりの発言に、さすがにムッとしかける私。あまりにも失礼な話だ。
結局この女性は、彼の口から聞いた女性の名前全てを疑って、別れた後も未練タラタラで新しい女探しをしているのか。
アホだ。そらここでカズ君きたら嫌な顔されるわ。
「どうでもいいけど、カズ君来たらどうするの?」
「いや、今日はなんかライブいくって彼の友達が行ってたから。」
そこまでリサーチ済かい。
結局彼女は私の人となりを見て安心したのか(それも失礼な話だな)、その後は「トモさんのほうが年上だしカズ君なんかじゃこどもっぽすぎますよね」とか、ご丁寧に釘までさしだした。
「ここ、いいお店だけど私の家からは遠いんですよね。」
そうか。安心したらもう用なしか。私は。
むかついたので、私もいらん一言を言ってみる。
「そうだよ。カズ君も他のお客さんたちとすごく仲良くなってるよ。
今日は来ないけど、ジュンコとかキョウちゃんとかまさるとか幸恵ちゃんとかユミちゃんとか、たくさんノリのいい子がいるよ。
アナタとも年が近いオンナノコ達だから、すぐ仲良くなれるのにね。うちが遠いのはちょっとネックだよね。」
片っ端から女の子の名前を出してやった。(キョウちゃんまで総動員)
「・・・トモさん、今日とても楽しかったです。
でも遠くてなかなかこれないのが残念だな。もっとトモさんと仲良くなりたいな。
たまには別の所とかに呑みに連れて行ってくださいよ。また恋バナしましょうよ。」
恋バナて。君一人で語ってただけとちゃうんかと。
つまり今後も私からカズ君の動きを探ろうという事なのか。
その後はもうめんどくさくなって、酔っ払った振りして逃げた。
この人、もし私が本当にカズ君の新しい彼女だったらどうするつもりだったんだろう。
彼女になる前の微妙な時だったら、こうやって叩いておいたんだろうか。
聞いてもいない2人の過去の甘い生活を吹聴しに来たのだろうか。
ほんと女は恐ろしい生き物だ。
アレだな。恋する女はひどいな。
あまりにも妙で微妙にムカつく体験だったので、人に話て皆で笑おうかと思ったんだがカズ君の名誉を考えるとそうもいかない。
勝手に元カノが自分の周りに出没し、自分の過去を垂れ流されてはたまったもんじゃない。
そう思った私はめずらしく貝のように口を閉じ、じっとする事にした。
その後カズ君は、結局付かず離れずで店にやってきては、大人な距離感で店に馴染んでいた。
私も彼には黙っていてもしあの女性から私の事はなされても嫌なので、一応元カノっていうひと来てたよとだけ言っておいた。
お互い大人な呼吸の取り方で、この話題はお流れになった。
空気読んでの大人な対処でしたね。<br>それで良いと想います。<br>探偵より。
ヤタ!俺大人!
いやぁ・・・こうにだけはなるまいとオモタアルヨ。