チナウ


2003-09-03 (水) お父さんに会う日は。 [長年日記]

切なくて、少し怖い。



お父さんに会う。

お父さんは仕事の都合で何ヶ月かに一度東京に来る。

私は子供の頃からお父さん子だった。お父さんが大好きだった。

いつもお父さんは強かった。

いつもお父さんは怖かった。

いつもお父さんは優しかった。

お父さんに怒られないかとドキドキしたり、

お父さんに好かれようとがんばったりした。

怒られたりして、たくさん泣いた日も、

いつも夜はお父さんの腕枕で眠った。

中学生になり、自分の部屋を与えられた日も、嬉しくて嬉しくてしかたなかったんだけど、

夜眠るときは一人が寂しくて、すぐ下の部屋にいるお父さんのいびきに耳をすませて眠った。

いきなり一人暮らしを始めたとき、あんなに怖く厳しかったお父さんは怒らなかった。

あのあたりからものすごく優しくなった。

勝手に東京に住む事を決めたときも、やっぱりお父さんは何も言わなかった。

大阪に帰ってくることがあれば、何時でも駅まで迎えに来てくれた。

私が帰る日はお酒を一滴も飲まず、私からの電話をまっているらしい。

車の中ではお父さんはものすごい勢いで自分の話ばかりをする。

たいていは分からないお父さんの仕事の話を。

自慢話がほとんどで、いつもお父さんは私の前では強い所ばかり見せようとしていた。

本当はお母さんからこっそりお父さんのダメなところも聞いていたけれど、

私はお父さんがダイスキだから、お父さんが喜ぶように感心して見せた。



去年、結納はお嬢さんを貰いに行くのだから大阪まで行くという向うのご両親に、

お父さんはこちらから挨拶に行くと言い出した。

親元を離れ東京で暮らす娘を、我娘のように大切にしてくれる向うの両親にお礼を言いに行きたいといった。

実家のように出入りする向うのお家に、一度お邪魔させてもらいたいと言い出した。

向うの両親も喜んでくれて、当日はでしゃばりなお父さんもがんばって大人しくしていた。

中華街で、緊張とテレでお酒をたくさん飲んで、お父さんは少しだけ酔っ払った。



東京に来るときも、いつも会議を抜け出して私と彼の住む部屋に来た。

部屋が古いとか文句を言いながらも、私たちが用意したお酒やおつまみを喜んで食べた。

帰りのタクシー代を渡そうとしたら、

そんなもの受け取れるかと怒りながら帰った。

貧乏なくせに。



今年の頭、彼と別れる事になって、お父さんはものすごくショックを受けた。

お父さんが涙をにじませる姿を初めて見た。

2月ちょうど東京へ来る事があったので、最後に彼に会って謝りたいと言い出した。

彼も最後にお父さんに会いたいといった。

お父さんがたくさん謝る事はますます彼を傷つける気がして、

私はお門違いにたくさんお父さんを責めた。

私たちが話し合いをした後に、もう終っているのにまだ会って謝りたいだなんて。

ぶり返しだ。それはお父さんの我ままだ。

自分がとんでもない事を言っているのは百も承知で、

私は彼をこれ以上傷つけたくなくてお父さんを責めた。

彼がお父さんをかばう始末だった。



その日以来お父さんは私の前で強がらなくなった



いつも大阪に電話すると、お母さんと話す向うでお父さんがかわってほしそうに大声で何かを言っていた。

最近は電話に出ることもほとんど無くなった。

東京に来る事があったら必ず連絡があったのに、

ここ数回は来ても何も言わずに帰っていたらしい。

去年の今ごろ来たときは、東京で私に会った後弟のユウスケに会い、帰りは大阪で働く弟ダイスケの店でご飯を食べた。

1泊2日子供めぐりの旅だとお母さんに自慢げに言っていたらしい。



お父さん。ごめんね。ほんとうにごめんね。



会う度に小さくなっていくお父さん。

私よりも相手の家のことばかり気にして私の目を見なくなったお父さん。

お父さんは親だから、お前の幸せが一番大切だよ。

でも、それだけでは許されないんだよ。

だって、お前を育てたのが俺なんだから。

そういって目をそらしたお父さん。

ちょっとだけ涙ぐんでいた。



お父さん。ごめんね。ほんとうにごめんね。



子供は生まれてたったの3年で親に恩を返すんだとお父さんは言っていた。

そのかわいらしさと、自分だけに全身で頼る愛らしさで、

その後の苦労はチャラになるといっていた。

ごめんね、お父さん。

そんなのウソだよね。



会ってもきっと、少し怒ったような、困ったような顔をしながら私を見るんだろうな。

ぶっきらぼうに近況を聞いてきて。

私が笑わせようとして言う冗談に笑った後、又何かを思い出したように黙り込むんだろうな。

ごめんね。



いつもいつも後になって自分のしたことを反省する。

私の思考は、いつも行動に追いつかない。

後悔はしていない。

しない自分にたまに恐ろしくなる。



それに巻き込んでしまった人たちへのこの気持ちは

多分一生持ってゆく

お母さんが言っていた、それがあなたの一生の十字架だと。



ああ。このことだったのかと、今更思考が追いついてきたよ。

ばかだな。本当に。





ごめんね。



ごめんね。





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# 6-30 (2003-09-04 (木) 14:30)

父親なんてさ、子どもから捨てられるだけなのかー。母親と違って自分の子かどうかわからないしネー。トモ吉の反省は、価値観を変えないから、内省だね。今までの価値観を省みてひっくり返すから反省なんだよ。チナウできたえられて、漢字博士から哲学博士をめざそうかな。


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