チナウ
2005-11-19 (土) 土曜日だというのに。 [長年日記]
■ そんな大人の休日。
本日も彼は出勤。
しかも6時おきの早出のため、彼を見送った後もう一度眠る。
目が覚めたら【まごまご嵐】がやってたので、あわてて起き洗濯機を回しながらどんべいを食べる。
携帯でメールチェックをするも電源が入ったり切れたりと調子が悪く、どうやら本格的にだめなご様子。 今までテレビのリモコン疑惑をぬぐいきれなかったカメラもついていない愛器(折りたたみですらない)、3年という長く、そして私の激動時に寄り添ってくれた相棒だが、いよいよチェンジに行くかと重い腰を上げる。
洗濯物を干し、どんべいのカップをキッチンにやり、掃除は後でいいかと考え出かける準備をする。
簡単に化粧をし、ジーンズのポケットにむき出しの1000円札3枚と銀行のカード、コートのポケットに携帯と鍵と高野文子の【るきさん】をねじ込んで家を出る。
ポストに入っていたはがきもポケットに入れ、コンビニで1万円を下ろしDocomoへ。
ポイントがたまっていたので、結局一番安いのでいいやといったらお金を使わずすんだ。カメラもついている。
そんで、お金浮いたなぁと思いながら近所のリサイクルショップの前を通りかかると、なんと新品同様のきれいなママチャリが7000円で売り出されている。
見ているとオネェサンに、「3段階ギアつきですよ!」とそそのかされた。
なんだかその【3段階ギア】という魅惑の言葉に取り付かれ、気がついたら目の前が自転車屋のその店で、親父が睨む中購入してしまった。
ご丁寧にポッケには、盗難防止登録のために身元を証明する郵便物がある。運命だ。
新しい相棒とめぐり合い、家の目の前だったが回れ右をし、とりあえず軽くドライブに行くことにする。
なんか家から、歩くにはたるいが自転車ならいけるという距離に、小さな小川の流れる公園があるらしい。早速相棒を走らせる。
相棒は軽快に走り出し、大きな川をひとつと小さな川をひとつ越えた。坂道も3段階ギアがあるから楽勝だけど、今はまだ最初の1段階のみで進んでみる。
入りくんだ住宅地をぐるぐるした。
迷った。
大体の地図は覚えてるつもりだったが、私は方向音痴だった。
ぐるぐるまわる。2人ぐらいに道を聞く。
何とかたどり着いた公園は小さく、小川もしょぼかったが、側にあったパン屋さんでできたてのホットドックと牛乳を購入し、小川のほとりのベンチで食べた。
ちょっと幸せになった。
さあ帰るべとひざのパンくずを払い、また相棒にまたがり颯爽と走らせる。
また迷った。
なんか、地名とかまったくわかんないし、自分が来た方向もすっかり見失ってしまう。少し大きな通りに出たので道路表を見るが、まったく知らない地名と無機質な国道名が記されている。
呆然とする私の隣を、まったく聞いたこともないような地名を目指すバスが走る。
あせってぐるぐる走る。余計わからなくなる。
しょんぼりしていると、どこからともなくおニクの匂いが。
ニクを焼くにおいがする!!と、私は猛然と走り出した。(ギアこの時点で2段階)
たどり着いたのは公園脇にあるやきとりやで、店の外にテーブルもあり、お酒を飲むおじさんや、若いお母さんに連れられた子供たちが、おいしそうに焼き鳥をほお張っている。
おなかはそんなにすいてなかったが、寂しくなった私は人とのふれあいに飢えていた。
とりあえず1本100円のねぎまとすなぎもと皮を塩で頼み、発泡酒の缶と一緒にテーブルのすみに陣取った。
足元に子供がよってくる。子供が私を見上げる。
おかあさんがこらこらマー君だめよとかいうので、かわいいですねと声をかけてみた。
「・・・ところでここどこですか?」
「は?!」
お母さんはびっくりした顔をするので、実は迷子になっちゃってと照れ笑いしてみた。
お母さんは、この道をずっとずっといくと駅ですよと苦笑いで教えてくれたが、そこは私の家の最寄り駅から4駅も離れた所だった。
マー君が、迷子なの?お母さんは?と聞くので、なんだか無性に寂しくなってきた。
若い親子に別れを告げ自転車を走らせながら、私はまだなれない新しい携帯でお母さんに電話してみた。
まさか迷子になったとはいえず、元気?と問いかけたところ、【私の頭の中の消しゴム】がすばらしかったと熱くネタバレされた。
電話を切ったらますます寂しくなってきて彼に電話しようかと思ったが、彼も仕事中と我慢し自転車を走らせる。
川を越えたりするうちに、またなんだかわからなくなってきた。
橋のたもとに、車で野菜を売る老夫婦を見つけたので道を聞いた。
迷子になった旨を関西弁で伝えたところ、「まさか大阪から?!!」とおばあちゃんにいわれた。むちゃな。
おじいちゃんが心配して、もう夕方だから店じまいして送ってやろうかとまで言ってくれたが、相棒もあるので大丈夫と強がって、ざくっと道を聞いてまた走り出した。
振り返ると老夫婦が、心配そうにいつまでもこちらを見送ってるもんだから、私は何度も振り向きながら笑顔で手を振って見せたがものすごく寂しかった。
冬の陽は薄情なほど短い。
だんだん薄暗くなる中住宅街をひたすら走る。寒いがコンビニすらない。鼻水が出る。
暮れ始めた街中に、やっと小さな明かりを見つける。地域密着型のさびれた喫茶店だった。
ショウウィンドーに飾られた大振りなカップのコーヒー230円に魅せられて、カウベルのついた木製のドアをカララと開ける。
奥には。なぜかカラオケセットが。
地元のおじいちゃんおばあちゃんがカラオケ大会をしていた。
あわてて出ようとする私に、常連らしきおじいちゃんが店から飛び出して追いかけてきてくれた。
むげにもできず覚悟を決めて店内に入り、片隅ですすったコーヒーはそれでも体に温かさをくれた。
そのうちカラオケ大会のメンバーが、あんたも歌いんさいと狂ったことを言い出した。
いや、オンチだからと精一杯断ったが、若い人が珍しいらしく、老人軍団が一致団結してマイクをぐりぐり押し付けてくる。
しかたなく、老人にもわかるようにと山口百恵の【いい日旅立ち】を歌った。こんなときにも人に気を使う心優しい自分を記しておきたい。
「ああ〜 日本のどこかに〜 私をまってる〜 人がいる〜 ・・・」
泣きそうになった。家に帰りたい。
今この瞬間、この歌を私以上に感情をこめて歌ってる人がいるだろうか。(いやいない。)
そんな私の心を察しようともせず、お年より軍団は「たしかにアレだけど声量はある。」とか、微妙に正直なコメントをザクザク投げてくる。
結局コーヒーもおまけしてもらい、私は自分の歌唱力と恥をコーヒーにかえて店を出た。道を聞こうかと思ったが、あの年頃の紳士淑女は親切が暴走しがちだ。
なんとかさっきの八百屋老夫婦の教えを思い出しつつ自転車を走らせた。
駅に出た。最寄り駅から6つも遠ざかっていた。なんで?
見慣れた電車が目の前を通過する。いっそのこと相棒を置いて乗って帰りたい。
しかし、苦しいときほど一緒にいるのが相棒じゃないか。いや、苦しみをともに乗り越えてこそ相棒じゃないか。
私は気を取り直し、線路沿いに走り出す。相棒も私のためにパワーを発揮してくれる。(この時点で3段階)
しかしこれが、駅間が遠い。これだから田舎は。
日はすっかり暮れた。今日のお月様は、黄色に血を混ぜたようないやな色のオレンジだ。
寒い。さっきのコーヒーは、自分の歌声の寒さで効力が半減となっていた。
家から漏れる光に、この一つ一つに生活があるのかと思うと切なくなる。焼き魚とか、シチューのような洋物汁系の香りがまた私の望郷をそそる。
たまに見かける宅配ピザ屋の香ばしい香りをかぎ少し元気になったり、【日焼けサロン・ちびくろさんぼ】とかいうストレートすぎる看板に戸惑ったり、【パーマ・ぺペロンチーノ】という美容院の看板のセンスに心底戸惑ったりしながら走った。
さらに走ると、またぽつんと光が。
なんと私の大好物メキシコ料理屋が。しかも店先には【あったかいカクテルはじめました!】とか、ドッキリとしか思えないタイミングのよさで掲げられている。罠か?
扉を開けたら床が抜けて、海外へ売られてしまうのではないかと思いながらも店内へ。
暖かい店内でコロナをイッキした後、チキンタコスとアボカドのサラダをホットウィスキー(カクテルじゃないし)で胃に収める。
マスターに迷子になったと伝えたら、ものすごく珍しいといわれた。そんなオーバーなといったら、っていうか大人の迷子って言うのが新鮮ですねといわれた。
体が少しあったまったので、今のうちにとまた自転車に乗り、ようやく愛するわが町にたどり着き、コーヒーが飲みたいのでそれくらいならとこの漫画喫茶にたどり着き、たった今コーヒーをブラックで3杯飲み干したところだ。
長くて私には大冒険に感じたが、客観的に見るとしみったれた一日だった。