チナウ
2003-08-01 (金) 8月入ったから。 [長年日記]
■ ちょっと不思議な話。
今から10年程前。ちょうど今くらいの時期のお話。
夜友達のマキちゃん(仮名)からベルが入った。近所のファミレスまできてるから出てこれないかという。
時間を見るともう10時過ぎ。
その頃は携帯なんか持ってなかったから、とりあえず向かった。
マキちゃんは少し怯えたような、混乱したような様子だった。
私はとりあえずコーヒーを頼んで、マキちゃんの話を聞くことにした。
話はこうだった。
その頃マキちゃんには、ヒデオくん(仮名)という彼がいた。
某J事務所にいたというヒデオくんは、小柄ながら整った可愛い顔をしていた。
両親は早くに離婚し、父親について東京にいたのだが、心臓に病気を抱えJ事務所をやめることになる。
かなり重い病気で、20歳まで生きられないと言われる。
母のもとで療養しようと大阪へやってきたのが17のとき。
その後マキちゃんと知り合い、なんとか20の壁をこえる事が出来た。
しかしヒデオくんのまわりでは、結構不思議な事がよくおこった。
数年前には東京にいる友達から、ヒデオくんを見たという電話が相次いでかかってきた。
しかも同じ日に5人の友人から、それぞれ違う場所で見たという電話だった。
ヒデオくんはイタズラだと思い相手にしなかったが、最後にかかってきた友人のすがるような問いかけに、ウンザリしながらずっと大阪にいたというと、その友人は半狂乱で泣き出したらしい。
じゃあ、俺が一緒にいたのは誰だったのだと。
他の4人が目撃証言なのにたいし、この友人だけはヒデオくんと2時間ほど行動を共にしたという。
さすがのヒデオくんも気味が悪くなり、その夜は眠れなかったらしい。
また別の日、夏のすごく暑い日の昼下がり。
ヒデオくんは学校の帰りでバイクに乗っていたらしい。
ものすごい猛暑に意識がもうろうとしてきたので危険を感じ、バイクを降り押して歩いた。
本当に、もうどこをどう歩いたか覚えていないそうだ。
気がついたら見覚えの無い団地の敷地内だった。
あれ、ここどこだ?とぼんやり思った瞬間、何かがドサリと自分の目の前に落ちた。
紺のワンピースの髪の長い女性。
顔を見る勇気はとうてい無かったが、ヒデオくんのスニーカーに、じわじわとどす黒い血が染み込んできた。
そのまま警察が駆けつけるまで、ヒデオくんは意識を失っていた。
その団地は地元でも有名な飛び降り自殺の多い団地で、私たちの通う高校のある小高い丘の上から見ると、とおく海辺に見えるその佇まいは、どんなに晴れた日でも、海が綺麗に光っている日でも、
スモッグがかかったようにグレーによどんで見えた。
マキちゃんは混乱しながらも、ゆっくりと確認するように話し出した。
今日はヒデオくんとものすごいケンカをしたらしい。
なんでも最近ヒデオくんに言い寄ってきているバイト先の女の子と、彼が2人で食事をしたらしい。
それを知ったマキちゃんは、電話でヒデオくんを問い詰め攻め立てた。
電話をしている最中混線のような雑音が混じりだし、あっという間にヒデオくんの声がかき消された。
今度はその雑音の中から小さなオルゴールの音が聞こえ出し、その音がどんどん大きくなってきた。
割り込みか保留をかけられたと思ったマキちゃんはすぐに電話を切り、すぐリダイヤルのボタンを押した。
3コールをまたずして電話に出たのは若い女性。
ヒデオくんには女兄弟がいない。
間違い電話かと思ったが、リダイヤルだ。そんなはずは無い。
苗字を聞くと、ヒデオくんの苗字ではない。
ただ。聞き覚えのある少し変わった苗字。
うまく聞き取れなかったが、間違えるはずは無いので恐る恐る聞いてみる。
違和感を感じながら女性と対話する。
「もしもし、ヒデオさんいらっしゃいますか?」
「ヒデオなら出かけてますけど?」
「あの、たった今まで電話で話していたんですけど。」
「そんなはずありません。ヒデオは2時間も前に出かけました。」
「は?何言ってるんですか。たった今電話が混線していったん切っただけで、たった今まで話していたんですよ。」
「は?何言ってるんですか。いったいあなた誰?」
「マキといいます。あなたこそ誰なんですか。」
「カナエです。ヒデオの彼女です。」
「はあ?!!冗談はやめてください。私がヒデオの彼女です。」
「もう悪戯電話はよしてください。」
そこで電話はたたき切られた。
怒りが収まらないマキちゃんはすぐにまたリダイヤルボタンを押す。
またカナエちゃんが出てくる。
「いたずらは止めよっっ!!!」
「そっちこそ!!いいからヒデオを出してよ!!」
「だから言ってるでしょ!ヒデオは2時間前にJ事務所のレッスンに行きました!!」
J事務所は大阪に出てくるときにやめたはず。
もう、5年も前に。
そこでマキちゃんは思い出した。
最初この女性が電話に出たときに名乗った苗字。
そう、ヒデオくんのお父さんの苗字だ。
ヒデオくんは大阪にきて、お母さんの苗字を名乗っていた。
「なんの冗談ですか?今ヒデオくんは大阪にいますよ。5年も前にJ事務所を止めてるじゃないですか。」
「もう、いたずらはいい加減にして下さい。」
「ヒデオは17のときに事務所を辞めたって言ってましたよ。」
「は?誰かと間違ってるんじゃないですか?ヒデオは16ですよ?」
「は?!!・・・・。あの、いま何年ですか?」
「198・・・・」
そこでまた電話が混線しだし、切れてしまう。
マキちゃんは慌てて電話をかけ返したら、今度は誰も出なかったそうだ。
そこまで一点を見つめながら話すマキちゃんを見て、私はその話がイタズラとしか思えなかった。
幼さの残るヒデオくんのくりんとした大きな瞳が、いたずらっ子のように輝いているように思えた。
しかし、話はそこで終らなかった。
その後やっぱりヒデオくんのイタズラだと思うと、ますます腹が立ってきたマキちゃんは1人で泣いていた。
大切な話のときに、こんなイタズラでごまかされるのが許せなかった。
マキちゃんの部屋へ、お姉ちゃんがやってきた。先ほどのすごい剣幕の電話が聞こえていたのだろう。
泣きながらお姉ちゃんにぐちるマキちゃん。
5,6年前の東京に電話がつながったなんて信じられる?
苦笑いしていたお姉ちゃんが、ふと思い出したようにこんな話をしだした。
「5,6年位前かな。家に変な電話があったよね。覚えてない?」
「?なんだっけ?」
「あんたあてに男のこから電話がかかってきて。そう、ちょうどコレくらいの時間。
駅の西口のモスで待ってるからって言う電話。その頃あんたって女子高だったし男にぜんぜん縁が無かったやん?
その電話お母さんが取って、てっきり私の彼だと思い込んで私にベル打ってきたのよ。
でもね、私その時彼と一緒だったの。
だからイタズラだろうってことで無視してたの。
ほら。駅前にモスないし。」
「今はモスあるよ。裏道のローソンの前に出来たんだよ。」
「そうなんだ。私最近自動車通勤だから駅使ってなかった。ふーん・・・。」
マキちゃんは嫌な予感がした。
そのまま自転車で駅前のモスまで行ってみた。
そこには。
イライラしながらコーラを飲むヒデオくんが座っていた。
「・・・。なんでここにいるの?」
「はあ?おまえ電話わざと出なかったんだろ。だから母ちゃんに伝言したんだよ。」
「だって・・・・」
マキちゃんは今あったことを話した。
ヒデオくんの顔色がみるみる変わっていった。
つぶやくように言った。
「カナエは・・・東京にいた頃、16ぐらいのときに確かに付き合っていた彼女の名前だ。
覚えてる。なんか、へんな女から電話があったとか言って後日俺たちスゲーケンカした。」
「・・・後日?」
「うん・・。電話がかかってきた日、俺事務所で倒れて。
その日だもん。心臓の病気が発覚したの・・・。」
マキちゃんは絶句した。
「俺・・・事務所辞めたくなかったんだけど・・・そのヘンな女が俺は事務所辞めるって言ってたって聞いて・・・。
事務所の誰かの嫌がらせかと思って・・・。実際人間関係もうまくいってなかったし辞めたんだ・・・。」
その後2人は何も話せず、ヒデオくんは真っ青のまま帰ったそうだ。
マキちゃんは何だか1人でいるのが怖くなって、3つ先の駅に住む私に電話してきたということだ。
その後私たちは終電まで、お互いあまり話さず気まずい空気のまま別れた。
ヒデオくんとマキちゃんはそれから1年ほどして別れ、その数年後、ヒデオくんは突然の発作のようなものを起こして亡くなったと聞いた。
死といつも隣り合わせの心臓を持っていたヒデオくん。
そんな彼だからこそ、こちらの世界とは違う世界につながりやすかったのだろうか。
そう思っていたんだけど、いまふと思った。
その後マキちゃんが付き合った彼といちど怖い話大会をしたとき、その彼も実によく不思議な体験をしていた。
オバケとか、そおいうものじゃなく。日常生活の中のちょっとした不思議とか歪とか。少し変わった体験とか。
ひょっとしたら、マキちゃん自身が何かを引き寄せているのか。
全然関係ないけれど、以前マキちゃんが言っていた言葉を思い出した。
「私今まで6人の人と付き合ったけど、ヒデオ以外は皆早くにお父さん亡くしてるのよね。
ヒデオのお家も離婚してお母さんについてたし。」
ほんとぜんぜん関係の無い発言なんだけど、なぜかひっかかった。
本人が気がついていないだけで何かを引き寄せている事。
それは怖い事だったり不思議な事だったり。あるいはラッキーなことだったり。
そんな力もあるんじゃないかなと私は思っている。
私も気がつかないうちにそんなことになってたらどうしようかと思い、彼になにか不思議な体験は無いか聞いてみた。
「俺さあ、昔一人暮らししてたときに夜中部屋の電気消してテレビ見てたんだよ。
そしたらトイレのドアが突然あいてさ。
なかから長い白い帽子かぶったコックさんが出てきた。
キョロキョロしながら風呂場に入っていった。
風呂場窓ないし。中身たら消えていなくなってた。」
それって幽霊じゃ・・・・・
「あいつ料理の一つも作ってくんなかった。使えないやつだったよ。」
ジーザス。
帰ってきた酔っ払い。綺麗なねーちゃんに囲まれて美味しい酒を飲む酔いどれ天使を夢見たのに、怖いカミサマに追い出された。車が180度横転する瞬間、スロービデオのよう。でもお土産の酒瓶も無事で、6-30は首のレントゲンも脳のCTも異常なし。医者に頭と顔の悪いのはなおせないが、性格の悪いのは本人の努力だって(チナウを毎日見てるから性格は悪くなる一方)。マイカーは6-30の身代わりに昇天した。合掌。
きっとチムに引き戻されたんだろー。この世に。でもなんか生まれ変わったみたい。……そんなことはないかー。
復活早々お元気そうでなによりだッチョ。180度横転て。
生まれ変わった6-30楽しみにしてるチム。
車が6-30の言うことを聞かず、駄々をこねて、仰向けになったんだ。シートベルトで宙づりになって、車の天井で道路を1メートル位スリップしただけです。メガネも壊れなかった。シートベルトさんアリガトー。