チナウ
2003-08-21 (木) 不信 [長年日記]
■ 動機
気が付くとバスの中にいた。つり革に掴まって立っていた。
大粒の雨が窓を叩きつけている。
窓の外を眺めると土砂降りだった。
足元に眼を向けると、靴が泥だらけだ。 その床には、ずぶ濡れた洋服から水滴が淀みなく垂れている。
横を見ると車内は満員だ。 普段、自転車やバイクを利用している人が この雨のおかげでバスを利用したためだろうと、ふと想った。
でも、床に広がった水滴の水溜りで乗客は周りを空けてくれている。 否、避けている。ココを中心にして。
バスを降りると電車に乗った。 ずぶ濡れの洋服を構いもせず、空いている席に座り込んだ。 体中に疲労を感じる。 いったい何処を歩いていたのだろう。 いったいどれくらい歩きつづけたのだろう。 分かるのは、足の痛みとこの疲労感は、 余程、大層な距離を歩きつづけたことは予想に違わないことだけだ。 押し寄せてくる疲労感が眠気を誘う。 また、このままなにも分からず眠ってしまうのか? その時、車両の奥でカナキリ声が聞こえた。 その後に、おやじの声。
何時の間にか車内は満員である。
カナキリ声の主は、罵声を浴びせているらしい。
「あなたにそんなことイワレル筋合いはないわ!」
「わたしの両親は身を粉にして働いていたのよ!」
「あなたみたいに楽していきようとは思ってないの!」
その後に続く酔ったような、しゃがれたおやじの声。
「みんな犬畜生だよ。」
満員の車内では、そのやり取りとゴトンゴトンという 電車の走行音だけがはっきりと聞こえる。
何がこの言い合いの原因だったのだろうか?
そうだよれより今は眠りたい。
いやまだ寝ては駄目....。
うとうとしかけた瞼を無理やり開けようとすると、 さっきまでの声が聞こえない。
不信に思って目を擦りながら ぼんやりとした眼で辺りを見渡すと、電車はもぬけの空だった。
一人....そう思いかけて前を向くとそこには人影があった。
対面した座席に誰かが座っている。 誰なのだろう。
ちょうど、西日が差していて影しかみえない。
そのシルエットに思わず声に出して呟いてしまった。
「あなたはだれ?」